の男、スペクターにつき要注意!!

 私には好きな人が居る。その人の名は「スペクター」。普通に話もするし、一緒に食堂でご飯も食べる。でも、彼の携帯の番号とアドレスを私は知らない。ベクターやベルトウェイのなら知ってるのに。相手が好きな人なだけに、聞けないんだよね・・・。でも、今日こそは聞くんだから!!頑張れ!○○っ!

「スペクター!!!」

 食堂で一人、テーブルに座るスペクターに、○○は昼食のカツ丼定食を持ちながら近づいた。そして、スペクターと向い合せに座り真剣な目を向ける。

「スペクター!!!!あのさっ!でん・・・でん・・・!」

 頑張れ○○!電話番号とアドレスを聞くんだ!!行けっ!!

「でんっ!!!・・・ででで、でんでん虫ってスペクターみたいだよねっ!!!」

「はぁ?」

「ほら!そのスコープなんかそっくり!それにヌメヌメした口調も!コンビ組んだら絶対にいけるよ!!『でんクター』とかどう?あ、いやいや、エスカルゴと合わせて『エスペルゴ』とか!!」

「お前・・・頭は大丈夫か?」

 スペクターがねっとりとした口調で○○に言う。

「も、もちろん大丈夫だよっ!!それよりさ、アド・・・アドっ!!」

 行け!!行くんだ○○!!番号がムリなら、まずはアドレスから!!さぁ、今度こそ聞くんだ!!

「アド・・・アドレ・・・アドーレ、アモーレ!あ〜もうお腹いっぱい!!」

「○○・・・まだ一口も食ってないだろう。大丈夫か?いつもおかしいけど、今日はもっとおかしいぞ、お前」

「全く問題ない。全っ然、大丈夫!」

 ○○はそう言って笑うと、自分の親指をグッとおっ立てた。 

 いつも楽しく話ができるくせに、肝心なことはなかなか言えない自分。何か悔しいけど、好きな人の番号が知りたくて頑張っちゃってる自分が何か嬉しくて、よくわからない笑いがこみ上げた。

「そうか。じゃ、俺はもうそろそろ行くな」

「うん。またね」

 笑って別れたものの、離れていくスペクターの背中を見ながら、○○は小さくため息をついた。

「あ〜あ、また聞けなかった〜!!・・・・・・あれ?誰だろう。知らない番号からだ」

 カツ丼の横で、自分の携帯が震えている。ディスプレイには知らない番号が出ていて、早く出ろと言わんばかりに、受話器マークが小刻みに動いている。

「・・・はい?」

『スペクターだ』

「スペクター!?何で私の番号知ってるの!?」

『お前がいつになっても聞いてこないから、勝手に手に入れた』

「嘘!?どうやって!?」

『俺は通信兵だ。俺の技術と恐喝でこんなことは朝飯前だ』

 恐喝したのかよ!とつっこみたくなる気持ちを抑える○○。それと同時に嬉しい気持ちもこみ上げてきた。

 たった今、スペクターは『いつになっても私が番号を聞いてこないから、勝手に手に入れた』って言ったよね?って言うことは、少なからず、スペクターも私のことを気にしていた・・・ってことだよね!?

『お前の情報は全て手に入れた』

 いつものスペクターの口調よりも、更にねっとりとした口調が受話器部分から聞こえた。

『面白い情報もある。お前の好きな男。お前が何に弱いか。体のどの部分が弱いかと言った方がいいか?それから、何に興奮するのか。しかも、この場合のこちらの行動パターンは限られている』

 ゲッ・・・!!

 ○○は驚いたように目を開いた。辺りをきょろきょろとスペクターを探す。しかし、彼の姿は見当たらない。

『○○。さっきお前、エスペルゴとか言ってたな。・・・俺を食用カタツムリと一緒にしてどうするつもりだ?』

 遠くから○○を見ていたスペクターは、自分のサーモグラフィーのスイッチを入れた。食堂が暗く映り、人々の体温が表わされる。その中に、全身が真っ赤に映る人型がただ一人。スペクターはそれを見ると、ニヤリと笑った。

『○○、好きな男・・・俺からの誘惑には勝てないみたいだな?これからが楽しみだ。なぁ?』

「ちょ、ちょっと!!」

 ○○は顔が真っ赤になるのを感じた。



 スペクター!嬉しいけど・・・要注意だな。


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