嘘・・・そんな・・・・・・
「・・・・・・嘘・・・・・・」
○○の携帯を握る手から力が抜けた。麻痺しているかのように、力の入らない足で黒い塊に近づく。黒い塊の先に見える金髪・・・。紛れもなくハンクの髪だった。黒い塊はよく見ると人型で、それはハンクだったのだ。鳴り続けるハンクの携帯に目をやれば、赤い光と共に「○○」と表示されている。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」
足の力が全て抜けてしまったかのように、その場に膝をついた○○。その悲痛な声だけが、静寂なハンクの家に木霊した。
「―で?」
場所は変わり、ハンクの部屋。ベッドに横になるハンクを、○○はキッと睨みつけた。
「・・・どうやら、風邪をひいたらしい」
ハンクは苦笑した。
ハンクの話をまとめるとこうだった。本人は風邪の自覚症状などなしに、普通に過ごしていたらしい。しかし、今朝、コーヒーを持って自室のドアノブに手を掛けたところ、視界が歪んだと思ったらそのまま・・・だそうだ。そして、先程の○○の悲鳴で目を開けたハンクが、そのままむくりと起き上って今に至る。ハンクからすれば、なぜ○○が叫びながら大泣きしているのかがわからなく、「○○、いったいどうしたんだ?」などと言っていた。熱を計れば39度もあるのに、当の本人は自覚症状がないから最悪だ。
「なぁ、○○、いい加減、泣き止んでくれないか?そんな顔されてると、治るものも治らな―」
ハンクは自分のベッドに腰掛けて、未だ赤くなった目で自分を睨む○○を見つめた。
「あ・な・た・が!泣かせたんでしょう!!」
ハンクが言い終わらないうちに、○○は自分の顔をハンクの顔にぐぐっと近づけた。
○○は、ハンクが倒れた時にできたコーヒーの零れたあとを、遠くから見て血だと勘違いしてしまったらしい。それで、ハンクが死んでしまったと。
「すまなかった」
ハンクの真剣な声にはっとして、○○は体ごとハンクの方を向いた。すると、彼の手が伸びてきて、○○の頭をポンポンと撫でた。
「○○、すまなかった。でも、これだけは聞いてくれ。・・・私は、何があっても死なない。絶対にだ」
「・・・無敵の死神も、風邪はひくんですね・・・」
○○は、自分の顔の横にあるハンクの手を握った。ハンクの手がもの凄く熱い。自覚症状はないと言っても、やはり風邪では体は熱いのだろう。○○がもう片方の手を伸ばしハンクの額に触れると、そちらも凄い熱さだった。
「お前の手は冷たいな」
ハンクが目を細めて言う。
「冬、冷え症は辛いんですよ」
○○は冷え症だ。手が温かいことなど全くない。しかし、その冷たさが今のハンクには心地よいらしい。二人は目を合わせると静かに笑った。
ハンクは、額にある○○の手をとると、その手をそっと、自分の肌蹴た胸元に置いた。
「ハ、ハンクさんっ・・・」
ハンクの胸に直に触れ、そこから伝わる熱と、彼の鼓動に○○は顔を赤くした。
「このままでいてくれ」
そう答えるハンクに、ドキドキしながらも、返事の代わりに額にキスを落とした。しばらくして穏やかな寝息と鼓動が伝わった。
だんだんと、ハンクの胸にある自分手が温かくなってきて、○○は、もう手を引っ込めた方がいいのではないかと考えた。
―でも、風邪だけど、熱があるんだけど、その体温をもっと感じていたくて。
ずっと○○は手はそのままで、ハンクの寝顔を見つめていた。
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