り善がりな想い

 ・・・あの人、クリス隊長が好きなんだなぁ・・・。

 クリスの元へ資料を届けに来た女性は、ニコニコと嬉しそうな顔をしていた。○○が所属するアルファチームへ届け物がある時は、いつもその女性が来る。その女性はクリスだけでなく、他のメンバーたちにも挨拶をし、一言二言会話を交わしている。そんな彼女を悪く言う人は居ないだろう。挨拶をされたメンバーはみんな、微笑んでいた。そして、そんな彼女の瞳がクリスを見る時だけ輝きを増しているのを、○○は知っていた。

 彼女のクリスを見つけた時の本当に嬉しそうな瞳。意図的なのか、そうではないのかは知らないが、若干高い感じの甘いような声。おそらく後者だろう。彼女に“作った”雰囲気は見られない。

 そして―、信じたくない事実。

 クリスも彼女のことが好きなようだ。彼女を見つめるクリスの穏やかな顔。いつもの優しい眼差しや微笑みは、しっかりと彼女へ向けられていた。

 ○○はクリス率いるアルファーチームのメンバーである。クリスとは話もするし、相談に乗ってもらうこともある。また、落ち込んだ時に慰めてもらったこともある。もちろん、笑い合うことだってある。しかし、クリスの○○への微笑みは、クリスが彼女へ見せるそれとは違っていた。

 そのことを知ってから○○はいつも、彼女を見た時に特に泣きたくなるような気持ちを心の中で懸命に押し潰していた。しかし、泣いたところでどうにもならない。もし、クリスの前で泣いたら、「どうした?」と優しく話を聞いてくれるだろう。しかしそれは「隊長だから」してくれることなのである。クリスからしてみれば、メンバーが落ち込んでいる時に元気付けるのは当たり前のことである。よって、「個人として」の目で見られることはない。しかし、クリスは「個人として」例の女性を見ている。どうやっても、○○に勝ち目はなかった。

 いつまでもそんなことを考えていてもしょうがない。○○は彼女から窓の外に広がる景色に目を移した。

 午後の日差しの中、春に近づいた最近は風が出ていた。木々が左右に大きく揺れている。


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