二年越しの

 ○○が日本へ発つ朝、ベクターは空港へ送りにやって来た。こんなこと、する必要などないかもしれない。しかし、彼女とこうして喋るのは、この日この瞬間で最後。叶うことのない己の感情にケリを付けたかった。

 自分の心境とは対照的な空港の明るさに、ベクターは顔を歪ませる。

 ○○は陽の光が差し込むガラス張りの所に居て、外へと眼を向けていた。その表情はどことなく悲しげで寂しそうだった。

 そんな彼女にベクターは声を掛ける。

「ベクターさん!?来て・・・くれたん・・・ですか・・・?」

「ああ、色々と・・・世話になったからな」

「そんなっ・・・私の方こそ―」

「○○」

 彼女が言い終わらないうちに、ベクターは彼女の名を呼んだ。言葉を発する度に泣きそうになる彼女を、これ以上喋らせて更に泣きそうにさせたくなかった。

「頑張れよ」

 それしか言えなかった。“頑張れ”としか。己の感情は言えなかった。言ったところでどうにもならないし、できない。○○がこちらに居るのは一年間だと、初めから承知していたこと。帰った日本でまた一年、その後のことは全くわからない。仮にこちらに再び来たとしても、もう会うことはないだろう。ならば、こんな感情、○○が好きだという感情は捨ててしまえばいい。初めからなかったことにして、今までと変わらずに過ごせばいい。

 飛行機の搭乗アナウンスが港内に響き渡り、座っていた人々が腰を上げる。○○も手に握っていた搭乗券を確認すると、飛行機の入り口へゆっくりと眼を向けた。

「・・・行き・・・ますね」

 お礼と共に頭を下げる○○の目から静かに涙が零れた。

 ゆっくりと歩き出す○○。涙を拭うその手。

 ベクターはその後ろ姿をただ黙って見つめた。

 これで本当に最後。

「○○!」

 ベクターは彼女を引き寄せ、きつく抱き締めた。

「許せっ!!!」


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