二年越しの

 二年前。

 ある春の日、公園に隣接された道路をベクターが歩いている時のことだった。

 公園の中から、女の声と数人の男の声が聞こえてきた。

―Please don't!

 木々の隙間から見える、悲鳴を上げる女。その光景が何を意味するかベクターにはすぐに見て取れた。

―No! Stop it!

 正直言って、「面倒ごとはごめんだ」というのがベクターの考えだった。見ず知らずの女がこの後どうなろうと自分とは関係のないこと。もちろんそれは、男や子供、誰に対しても同じだった。「己のことは己自身で片を付けろ」、常にそう思い戦場を駆けるベクターからすれば当然の考えかもしれない。生と死が隣り合わせのこの世界では、他の者に気を遣うような優しい心は必要なかった。自分が生き残れればいいことだった。

 女の悲鳴が聞こえても、どうということはなかった。

 ベクターは、歩くのを再開しようと、公園から視線を戻す。

 しかし、女の悲鳴はどんどん酷くなるばかり。

―No!!!!!!

「ああっ!クソッ・・・!」

 いつまでも自分の耳に響く耳障りな女の声に、さっさとこの場を去ろうとするが、ベクターの意思とは反対に、その足は動かない。

「―フン。この真っ昼間に・・・公園などで、随分とお盛んなものだ・・・!」

 足が動かないどころか、「面倒ごとはごめんだ」の方へと、ベクターの足は靴底を鳴らして向かっていた。


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