独り善がりな想い
「あの・・・クリス隊長、あの女の人はどうなんですか?毎回、凄く優しい笑顔を向けていましたけど・・・」
降りしきる雨の中で何度も口付けを交わした2人は、アルファチームのオフィスに戻ると濡れた服の上から毛布を被って身を寄せていた。
あの後、自分の無礼な態度や暴言を散々謝った○○。
―『そんな物、俺は気にしていない。もし気にしているなら、それはこの瞬間までだ。この雨のように全部流してしまえばいい』
そう言ってくれたクリス。しかし、互いの気持ちはわかったものの、気になることがまだ○○には残っていた。あの女性のことだ。あの女性に自分は嫉妬していたのだから。
「“あの女の人”って・・・誰?」
「ほら、あの・・・資料なんかをよく届けに来る女の人ですよ、感じのいい」
○○がクリスの顔を見ると、クリスは何か言いたげに若干眉を寄せた。
「・・・やっぱり、好きなんで―」
「違う違う違う!」
○○が“好きなんですか?”と聞こうとした瞬間、クリスはそれを遮って、苦笑しながら手を左右に振る。
「あの人は、若作りしたおばさんだ!それに、旦那も子供も居る」
クリスはそんな目で見たことは一度もないと言った。また、他の部署の人だから、やはり話すのには気を使う。それで、多少感じよくはしていたが・・・とも言った。
「でも、クリス隊長、楽しそうでしたよね・・・私に見せる笑顔とは違うような気が・・・」
「そんなことはない!でも、もし仮にそう見えるんだとしたら、それは俺が中年のおばさんと笑い合う、中年のオヤジの顔だ。お前を見る顔は―」
「私を見る顔は?」
○○はクリスの顔を覗き込んだ。
「こういう顔だ!」
クリスは真剣な“男の顔”をすると、手を伸ばし電気のスイッチを切り替えた。明るかったオフィスが一気に暗くなる。
「○○」
クリスはそのまま○○を引き寄せると、静かに口付けを落とした。
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