り善がりな想い

 降りしきる雨の中を、○○は駆けていた。顔にかかる雨のおかげで、涙か滴かわからない。既に全身びしょびしょだが、かえってそれが気持ちよかった。

 あれだけのことを言ったのだ。これできっと、自分は嫌われた。クリスが自分のことを、無礼な女だと蔑んでくればいい。アルファチームには必要ないと言ってくれればいい。そしてとことん嫌われてしまえばいい。そうすれば、クリスのことなど気にならない。もう全部壊してしまえばよかった。

 誰からも見えない、BSAAの敷地内の建物の角で○○は足を止めた。はぁはぁと息を切らしながら壁に寄り掛かる。

―○○ーっ!!

 遠くから自分を呼ぶクリスの声がした。これでいいのだと自分に言い聞かせた時に、その決断を揺るがす彼の声。

 クリスからは死角であろうこの場所から、○○は彼の姿をそっとうかがった。全身びしょ濡れになりながら必死で自分を探しているクリスが、外灯によって映し出される。

 冷静になって考えてみれば、自分は一体何をしているのだろうか。独りで取り乱して、独り善がりな想いを押し付けて。

「―私、何やってるんだろ」

 混乱していた頭が冷静を取り戻しつつあった。“謝らなくちゃ”と、とっさに○○はそう思った。今さら謝ったところで許されることではない。しかし―。

「もう、これ以上―」

 ○○は角から飛び出した。そして、大きく息を吸い込む。

「クリス隊長ーっ!」


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