独り善がりな想い
この時だけは、「自分は特別だ」と思いたかった。
○○は本当はわかっていた。本当に好きならば、いつか告白しなければいけないと。こんな風に毛布を掛けて見つめるだけの時間を、どうにかしなければならないことを。しかし、いつもあの女性が居た。例えあの女性が居たとしても、こういう二人っきりの時に告白できるじゃないか。そう思う時もあった。
でも、できなかった。
いつかいつかと先延ばしするうちに、あの女性がどんどん大きくなってしまっていた。あの女性に向けるクリスの笑顔は本当に優しくて、それが凄く嫌だった。本当に告白しようと決めた時もあった。しかし、いざクリスを前にすると、あの女性と笑い合うクリスの光景が嫌でもよみがえり、尻込みしてしまったのだった。
星に例えたら、あの女性はきっとクリスの中で、一番に輝く特別な星なのだろう。自分は何でもない。
だから、せめてこんな風に毛布を掛けるというような小さなことでも、「特別」が欲しかった。クリスに毛布を掛けることは、あの女性にはない。だから、これだけは自分は特別で居られた。告白する勇気のない自分を棚に上げてでも、勝手に特別だと思い込んででも、あの女性よりも自分の方がはるかにクリスの近くに居ると思いたかった。
どうやっても、あの女性を認めたくなかった。
「私ってば、最低だな」
この嫌な気持ちも、○○はとっくの前からわかっていた。あの女性が羨ましいのは事実。しかし、羨ましいだけではない。妬ましいのだ。「嫉妬」という名の黒い感情。そんな自分をどうしていいかわからなかった。
「ごめんなさい、クリス隊長・・・。あなたが特別に想うあの女性に・・・」
眠るクリスを見つめる○○の瞳から、静かに涙が零れ落ちた。
「・・・嫉妬する程、あなたが好きなんです・・・」
俯いた○○は、両手で顔を覆った。
「ごめんなさい・・・クリス隊長・・・」
激しくなった雨が、それでいて静かに降り続いていた。
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