り善がりな想い

 アルファチームのオフィスには、まだ明りが点いていた。ドアを静かに開け、自分のデスクの上に資料を置いた○○は部屋の中を見渡す。

 あるデスクの上に、覆いかぶさるように盛り上がる物。それは静かに規則正しく上下している。

「クリス隊長・・・」

 残業だったクリス。疲れが溜まっていたのか、デスクの上で眠ってしまっている。

「クリス隊長、風邪ひいちゃいますよ」

 季節の変わり目は風邪をひきやすい。まだ肌寒いこの時期に、いつまでもこんなところで寝ていては、さすがのクリスも体調を崩してしまう。かと言って、起こすのも気が引けてしまう。

「えっ・・・と、毛布、毛布・・・」

 ○○は部屋の隅に目を向けた。いくつか常備された毛布があるのを○○はよく知っていた。“自分がオフィスに戻ると、クリスが眠ってしまっている”時がたびたびあった。その度に、○○は静かに彼に毛布を掛けていたからだ。もちろん、クリスが眠った時間よりも随分前に帰ったと思われている○○が毛布を掛けたとは、クリス本人も誰も知る由もない。

 ○○はいつものように、毛布をクリスの肩から、その体の上にそっと掛ける。薄ピンク色の毛布に包まれたクリス。それを見て、くすりと笑った。

 そのまま、○○はクリスの隣のデスクの椅子に腰かける。すぅすぅと寝息をたてるクリスを穏やかな目で見つめた。

 この一時だけは、○○にとって嬉しいものだった。誰も知らないクリスの寝顔を自分だけが知っている。あの女性はもちろん知るはずもない。毛布を掛けて優しさをアピールしようとか、“自分が掛けました”なんてことを気付かせようとか、そんなことではない。ただただ、嬉しかった。

 そして、そんな穏やかで嬉しい気持ちと同時に、切ない気持ちも生まれてくる。

 この時だけは、「自分は特別だ」と思いたかった。


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