荒ぶるおっさん
「クリス、仕事は6時までだよね?」
「ああ!だから一時間半早く終わりにした!」
今、彼は何と言っただろうか。『一時間半早く終わりにした』と聞こえた気がするのだが・・・BSAAアルファーチームの、しかも隊長がバナナの特売ごときでそんなことをしていいのだろうか。
「言ってくれれば、買に行ったのに」
○○が言うと、クリスは真剣な眼差しを彼女に向けた。
「いや・・・あんな危ない所に、お前を行かせる訳にはいかない・・・!」
そう言うと、クリスはポンと○○の肩を叩いた。テーブルに並べた大量のバナナのうち、一房を持ってリビングのソファーへと向かうクリス。その背中を見つめ、特売に命をかけるクリスを○○は想像した。特売開始時間の前にバナナコーナーへと猛ダッシュをするクリス。時間が危なかったらスライディングもしたかもしれない。そして、スタートと同時に、ありったけのバナナを専用の袋に入れるクリス。よくぞまあ、袋のビニールが伸びるまで入れたもんだ。あの筋肉だ、バナナを握り潰したり、袋を破かなかっただけ良しとするべきか。フィニッシュブローをきめる時の「ム〜ン!!!!!!」の掛け声をあげながら、更なる量のバナナを袋に詰めるクリス。そして極めつけに、バナナに群がるおば様方を吹っ飛ばしながら「I can still make it out! There's still time!!!」と叫ぶクリス。立ち上がるおば様方の波に揺られながらも、最後のバナナに手をのばすクリス。「No!!! It's my banana!!!」
「クリスが買い物する方が、よっぽど危ないんだけど・・・!」
これはもう、荒ぶるおっさんだわ・・・とため息をつきながら○○はクリスを見た。当の本人は至極上機嫌でバナナを食べている。
あんなに嬉しそうに食べられたら、バナナも幸せだろうなぁ。
[ back to top ]