ぶるおっさん

「クリス、それ何?」

 クリスが仕事を終え家に帰ってきた。いつもならインターホンなど鳴らさないのだが、今日に限ってインターホンを鳴らしたクリス。○○が玄関を開けると、そこには両手にいくつものスーパーの袋を持ったクリスが居た。

「バナナだ!」

「―は?」

「今日は夕方からバナナの特売だろ?だから買ってきた!」

 いそいそと家の中に入ったクリスは、ニッと笑って○○の前にスーパーの袋を突き出した。

 なるほど、よく見れば、ピチピチに張ったスーパーの袋に、バナナの房の形が浮き出ている。ところどころ、袋のビニールが伸びている箇所も見える。おそらく、クリスがもの凄い勢いで、もの凄い量のバナナを詰め込んだのだろう。○○は今朝のスーパーの広告を思い出した。『本日夕方5時よりバナナ一房80円!袋数制限なしの詰め放題!なくなり次第終了!!』

「―クリス、もしかして今朝入った広告の・・・?」

 ○○が再びクリスに目を向けると、クリスはキッチンのテーブルの上に戦利品である大量のバナナを並べている最中であった。

「ああそうだ!俺がこの手の情報を逃す訳がない!!」

 ・・・クリスが訳のわからないことを言っている。確かに、クリスはバナナが好きだった。そう言えば今朝、出勤前に『よし!必ずこの―をおさえるぞ!』と言ってたなと○○はテーブルの上のバナナを見やる。『必ずこの―』の後は、洗い物をしていたためによく聞こえなかったが、あの部分は「バナナ」だったのか。待てよ・・・クリスの出勤先であるBSAAは終業時刻は18時。家からオフィスまでは車で20分。スーパーは家の近くで、どうやっても特売の時間には間に合わない。特売開始から30分近く経てば、人気商品はなくなる可能性が高い。バナナ一房80円もその一員だろう。

「クリス、仕事は6時までだよね?」

「ああ!だから一時間半早く終わりにした!」


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