極めるおっさん
夕飯の後―
さっきのは見なかったことにしようと○○が洗い物に専念していれば、リビングからクリスとピアーズの相談が聞こえてくる。
「隊長!バナナ商事のことですが・・・」
バナナ商事!?それって、才羽商事のこと!?
アニメの中の、主人公リョウちゃんの家と事務所を兼ねたマンションのことだろうか。
「それは、月曜日に俺が使ってるあの会議室でいいですよね」
「あぁ!」
今は使われていない、会議室のことか。
「あ、ピアーズ!!黒板の『XYZ』の文字は、習字用半紙に墨で「わおん」でいいよな!」
リョウちゃんが使っている新宿駅の黒板のことだ。依頼者はチョークでXYZと書くのがお決まりだ。XYZとは「後がない」ということを表している。
「いいですね!!」
おい!いいのかよ!!だいたい何で筆で書かなきゃいけないのよ!しかも古風に!!いちいち墨付けて書くの、めんどくさいでしょうが!事務所を訪ねて行って本人に直接言う方が早いわ!!!
「隊長!報酬は?」
あ、忘れてた・・・報酬ってどうするんだろ・・・。
「報酬は!!」
どうしよう!リョウちゃんみたいに「もっこり」とか言ったら困る!家の中だけならまだしも、職場でそんな!!!
○○は焦り、荒い物を投げ出してリビングへ向かう。
「報酬はな・・・も―」
「だめぇーっ!!!」
「もっこりバナナだ!!!」
は!?・・・もっこり・・・バナナ!?
クリス目がけて伸ばした両手を、○○はぴたりと止める。
「大量のバナナだ!バナナを袋に詰めて、その袋がもっこりするくらい多い量のバナナじゃなきゃだめだ!」
「よし!決まりだ!もっこりバナナですね!!」
クリスとピアーズの傍で、わなわなと震える○○。すぐ脇にあったバナナの房から一本をむしり取ると、すごい勢いで皮を剥く。そして、その皮をクリスの顔に思い切り投げ付けた。
「やめんかーっ!!もうっ!!」
しかし、クリスはそんな○○を見て嬉しそうな顔をする。
「なんだ!○○もTOWN HUNTERが好きだったのか!今のその動作、沙織みたいだぞ!!」
「え゛!!!」
たった今出てきた“沙織”とはリョウちゃんの相棒であり、リョウちゃんの言動に対し、100トンハンマーで天誅を下すという重要なポジションだ。
「○○さん、似合ってますよ!!」
ピアーズもにこにこと笑う。
「ちょっと待ってよ!何で私まで―!!!」
○○は「たまったもんじゃない!」という顔をするが、クリスはそんなことなどお構いなしである。まだまだ出てくる相談を、楽しそうにピアーズと話している。
「ピアーズ!まだまだ極めるぞ!!」
「はい!隊長!!」
あ〜・・・極めるおっさん・・・・・・。
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