嬉しいおっさん
「妊娠したんだ!!!!」
「はいはい・・・」
そう、実はこの会話、「妊娠した」と言っているのがクリスなのである。彼は嬉しそうな顔で○○の肩を揺さぶった。
では、○○が肩を震わせていたのはなぜか。それは、深刻な顔をするクリスが深刻だった例がないからである。それに、クリスが「妊娠した」なんて断言できる物と言えば、ただ一つ。ゴリラしかない。脳みそがほぼゴリラになっているクリスに対し、呆れと言うべきか、怒りと言うべきか、よくわからない感情が、○○の中には込み上げていたのだ。
「何が妊娠したの?」
わかりきった質問を、○○はする。
「ゴリラだよ!!」
「どこのゴリラ!?」
動物が妊娠したなどと、わざわざ知らせてくれる動物園はないだろう。そうなれば、自分がその場に言って訊くしかない。閉園時間に間に合うような近場に、動物園などあっただろうか。
「Mike★ZOOだ!○○!!!」
クリスが言った動物園の名前を聞いて、○○は顔全体から「呆れ」を発する。
・・・Mike★ZOOね・・・。そう言えば、クリスってそこのプラチナ会員だったっけ・・・。
Mike★ZOOならば、自宅から45分足らずで着く。しかし・・・。
「まさか、BSAAオフィスから行ったの?」
「当たり前だ!!家に帰ってから行ったら、閉園に間に合わないだろう!!」
「ちょ、ちょっと待って!!」
“閉園に間に合わない”、その言葉に○○は慌てた。自宅からMike★ZOOに行くよりも、BSAAオフィスから行った方が早いからと言ったって、間に合う訳がないのだ。
Mike★ZOOは平日は18時に閉園してしまうのだ。クリスの出勤先であるBSAAは終業時刻は18時。その時点で既に間に合わない。休日ならば20時閉園だが・・・。先程のクリスの「妊娠した」という言葉を思い出しても、妊娠を知ったのは今日のようだ。そうだとしたら、平日である今日は絶対に閉園時間に間に合わない。
「今日行ったん・・・だよね?」
かつて、バナナの特売のために仕事を早く切り上げたクリス。○○の中で「まさか」の三文字が浮かんだ。
「ここ最近、毎日行ってたんだ!!!」
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