悲惨なおっさん
「う・・・うぅむ・・・!はっ!!!俺のバナナッ!!!!!!」
クリスを起こそうと○○が手を伸ばした瞬間、クリスが勢いよく上半身を起こした。
「がっ!!!」
クリスの額が顎に当たり、女性らしからぬ悲鳴と共に再び尻餅をつく○○。
この時点で、悲惨なのは自分かもしれない。顔面にクリスの食べかけのバナナがもの凄い速さで当たり、痛みに耐えながらも彼を想って心配をすれば、その彼はバナナの心配ときた。そして、その彼の額をもろに顎に食らう。尻餅は二回。
「バ、バナナ・・・!俺のバナナァッ!!」
「やかましいっ!」
クリスは四つん這いになり、先程食べていたバナナを探し出す。○○が顔と顎のダブルの痛みに耐えながら尻餅をついていることなど、まるで眼中にない。
・・・どうやらクリスは無事のようだ。しかし○○からすれば、自分自身は無事ではない。残念すぎる彼を見てしまったし、その後の自分の状態も残念すぎる。
「・・・はぁ・・・“残念”を通り越して、もはや“悲惨”だよ・・・」
実際は、クリスがバナナで滑る所は見ていない。しかし、おそらく“そうだった”であろうなど、「悲惨」としか言いようがない。そして、滑った後に、顔の上にバナナの皮など・・・。そのせいで自分の顔面に食べかけのバナナ、顎に額を食らうなど・・・。
「悲惨すぎて、話す気にもならないわ!」
「そうだな・・・悲惨すぎる・・・」
○○が深いため息をつくと、クリスが隣にやって来た。
「・・・俺の・・・俺のバナナがっ!!何かに当たってへこんだ痕が付いている!!!!」
「そっちかいっ!!」
○○の顔面に当たったバナナを見て叫ぶクリス。彼はどうやってもバナナの心配しか頭にないらしい。
「この脳みそゴリラ!!バカっ!!!!!!」
もういいもんっ!!クリスの心配なんかしないから!!
「私、二階に行くからね!!そこ退いてっ!!」
クリスのゴリラっぷりに、怒りが増えていく○○。隣に居るクリス押し退けてズカズカと歩き出した。
その時!
「っおっわあぁぁ!!!!!!」
―デーンッ!!
バナナの皮・・・先程クリスが滑ったバナナの皮で滑った○○。何が起こったのかわからなく、急に広がる廊下の木目に驚きの表情を隠せない。
何・・・?何が起こったの?え?廊下・・・?
○○は、ゆ〜っくりと、うつ伏せ状態のままクリスに顔を向ける。するとクリスは、バナナで滑った○○に、憐みの眼差しを向けていた。
「○○・・・悲惨すぎるぞ・・・」
「ちょ、ちょっと!何てこと言うのよっ!!クリスだってバナナで滑ったんでしょ!?私よりも大きな音、してたじゃない!!」
転んだ時に人の顔面にバナナをぶつけないだけマシだと言い張る○○。
「○○・・・」
クリスはしゃがみ、ニヤニヤしながら由美の肩を“ポン”と叩いた。
「うぅ、悲惨だわ・・・っ!!」
ちっくしょう!悲惨なおっさん・・・。あぁ・・・今回は私も悲惨だわ・・・。
○○は、本日何度目かわからないため息をついた。
何で廊下にバナナの皮なんか落ちてんのよ・・・!!!!!!
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