張るおっさん

 ギシギシと167キロに不平を言うような、大して速度の上がらない自転車を漕ぐピアーズの後ろで、クリスは携帯で○○を呼び出していた。

『あっ!もしもし?クリ―』

「○○か?今どこに居る!」

 ○○が言い終わらないうちに、クリスは声大きく訊いた。

『今?スーパーMikeのバナナコーナーだけど・・・今ね!“熟れすぎたバナナ特売”っていうのをやってて、茶色いバナナの試食を配ってるの!!』

 電話越しでもわかる。○○は今、茶色いバナナを食べようとしている。

『凄く甘そうないい匂いなん―』

「止めろ!食うなっ!!!」

 クリスは携帯を握り締め、声を限りに叫んだ。

「隊長!!スーパーの入り口が見えて来た!!!」

 ピアーズのこの言葉と共に、事態は冒頭へと至る。




「そういう訳ね!」

 クリスとピアーズの話を聞き、酷く呆れた顔をする○○。

 何でスーパー限定で集団催眠術なのよ!バカじゃないの!?

「○○!偉葉屋では絶対にバナナを買うな!!」

 勢いよく○○の両肩を掴んだクリス。その瞳は未だ怒りの色をしている。

 “偉葉屋”ってバナナの激戦区じゃん!そんな所にわざわざ買いに行くかいっ!!

 そう、○○がいつもバナナを買うのは近くのスーパーである、このスーパーMikeである。偉葉屋があるのはバナナの激戦区であり、スーパーより遠い場所である。しかも、バナナの専門店が立ち並び、激戦区でありながら値段はスーパーより随分と高い。そんな店ばかりの所でクリスのためにバナナの大量買いをしようものなら、いったい月にいくらかかるものか・・・。

 頼まれたって買いたくないわ!!

「いつもスーパーで買うし、これからもスーパーだから大丈夫だよ?」

 ○○は苦笑した。

「茶色いバナナも買うなよ」

「買わないよ!ほっとけば、すぐヒョウ柄になって茶色くなるもん!」

 そんなもの、わざわざお金出して買わないわっ!!

「そういえば、アルファーチームのみんなは・・・?」

「さっき、俺の携帯に連絡がありました。みんな元に戻ったそうです。どうやら催眠術は一過性のものだったようですね」

 ピアーズは○○に顔を向けた。

 うっわ!何その催眠術!!首謀者バカすぎ!!催眠術の効果、いったい何時間よ!?

「偉葉屋の人たちも催眠術でこの数時間の記憶がないらしい。しかし、偉葉屋があの青い服の女と通じていないとも断言できない・・・現にあの女はどこかに居るんだからな」

 結局、あの女の本当の目的も、バナナリズム有酸素運動とやらも全くわからない。

 クリスとピアーズと顔を見合わせた。

 そんな二人を○○は心配そうに見やる。

 これからもこの人たち、こうやってバナナとかゴリラに全力を注いで頑張るのかしら・・・。

「○○!そんなに心配しな―」

「してないよ!!」

 心配なんか誰がするもんですか!!・・・・・・「頑張るおっさん」か・・・あ〜あ、あの自転車どうするんだろ・・・はぁ。

 もう使い物にならないであろう、クリスとピアーズが乗って来た他人様の自転車。

 先が思いやられると○○はため息をついた。


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