頑張るおっさん
今日は朝からBSAAアルファーチームでは宴会が行われていた。この朝からの宴会は恒例で、「家族であるチームの絆を深めるため」という名目でいつでも行える、BSAA上層部も認めている行事である。
桜は全て散り、青々とした葉が茂るアスレチックのある公園で、一般市民も居る中、宴会は行われた。
今回も楽しい宴会のはずだった。
しかし、それは違った。
昼頃に支給される予定になっていた大量のバナナが、注文通りに支給されなかったのだ。注文するのはアルファーチームの新人幾人かの役目で、一か月も前から注文して、前日にもきちんと確認していたはずだった。
「お〜い!みんな!バナナが届いたぞ〜!!」
「おっ!やったー!!バナナだ!!」
「食おうぜ食おうぜっ!!」
支給されたバナナの詰まった段ボール箱を、隊員は我先にと開ける。しかし、箱の中のバナナが姿を現した時、隊員たちの手はピタリと止まった。
「何だ・・・これ?」
そう、想像していたバナナとは違ったのだ。黄色いバナナではなく、そこには茶色いバナナが大量に入っていた。
しかし、隊員たちは気にも留めず茶色いバナナを食べ始める。
茶色いバナナ・・・つまり、黄色いバナナが熟れたということ。「食べ物は腐りかけが美味い」とよく言うので、箱に入っていたバナナに対しても「今日のために、バナナ屋の人が気を利かせてくれた」くらいにしか思わなかった。
茶色いバナナが支給された時、クリスとピアーズはトイレに行っていて、隊員たちがバナナを口にするところは見ていない。
しかし、トイレから出てきた瞬間、二人は衝撃的な光景を目の当たりにすることとなった。
「隊長!早く行きましょう!バナナが支給されますよ!って・・・えぇ!?」
ハンカチで手を拭きながら、隊員が居るであろうブルーシートに目を向けたピアーズが驚いた声をあげる。
その彼の声に、手を洗っていたクリスも蛇口を止めて顔を上げた。
目を疑うその光景。ブルーシートには誰も居なく、公園のど真ん中に隊員たちが横一色線に並び、ゆらゆらと歩いていた。しかも、彼らの手には茶色いバナナが握られている。右、左、右と足を踏み出しては銃を構えるようにバナナを構える彼ら。集団催眠術でもかけられたかのように気持ち悪い歩き方をしているくせに、アルファーチームだからバナナを構えるのがやたらと機敏だ。
戦闘服を着ているアルファーチーム。しかし、宴会なので銃は持っていなかった。両足の太股部分に付けられた空のホルスターには茶色いバナナが入れられている。
そんな気味の悪い光景を目の当たりにしてしまっては、一般市民は堪らない。踏み出してはバナナを構える彼らを見て、小さい子供は泣き出してしまい、大人も悲鳴を上げている。
「おい!みんな!どうしたんだよ!マルコ!フィン!」
ピアーズが止めに入るも、全く止まらない彼ら。止まるどころか、バナナでピアーズの顔面を殴っている。
困ったことに攻撃ができない。こんな状態の奴らでも仲間なのだ。
ピアーズはバナナ顔面攻撃に耐えていたが、情けないことに石に躓いて尻餅をついた。すると、ピアーズの正面に位置していた隊員がピアーズの上をのしのしと歩いて行く。
「いてっ!いてっ!」
バナナで殴られる鈍い痛みと、身体を歩かれる痛みと重さ、そして、口の中に入る砂埃とでピアーズは顔を歪める。
「お、おい!」
このまま歩き続ければ、いずれは公園を出てしまう。もしそうなったらどうすればいいのか。
しかし、止める術は見つからない。ピアーズとクリスはただ呆然と彼らの背中を見つめた。何が起きているのか、さっぱりわからない。
すると、暫く歩いて公園の端に到達した彼らが、綺麗に一斉に回れ右をして戻って来た。右、左、右、と踏み出してバナナを構える。それを繰り返して。
「おいおい・・・公園内オンリーの集団催眠術かよ・・・!」
「偉葉屋だ・・・」
「え?」
ピアーズが戻って来る彼らを見て呆れた声を出すと、クリスの静かな声が聞こえた。クリスの目は茶色いバナナが入っていた段ボール箱に向いている。
段ボール箱には「偉葉屋」と書かれていた。
家族と呼び互いに信頼しあっているアルファーチームが、何者かのせいでおかしくなっている。また、この宴会でチームでバナナを食べ、そして語り合うのをどれ程楽しみにしていたことか。
クリスは怒った。
「バナナァ!」
空のホルスターに茶色いバナナを入れ、手にはバナナを持つ。
「隊長、危険だ!」
クリスが駆け出すと、ピアーズもバナナを装備し後に続いた。
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