優しいおっさん
家に帰ると同時に、抱え上げられる○○の身体。そのまま寝室へと運ばれ、ベッドの上に優しく下ろされる。
そして、○○の唇に降ってくるクリスの優しい口付け。何度も何度も繰り返される、触れるだけの口付け。
「クリス・・・バナナはいいの?」
唇が離れた時に、○○は静かに訊いた。
いつもは家に帰るとすぐにバナナを食べるクリスが、今日は違って、バナナに見向きもしない。
「こんな時にバナナを食べる程、俺はゴリラじゃない」
クリスは優しく笑うと、一旦、上体を起こし、服を脱ぎ捨てる。
「○○」
○○の名を呼び、再び覆いかぶさるクリス。
「俺だって、全身でお前を感じたい」
○○の温もりを。○○が俺の傍に居るという証を。そして、俺が○○の傍に居るという証を。
「○○」
○○の両頬に添えられる、クリスの大きな手。
「○○、俺を見ろ」
まっすぐなクリスの優しい眼差し。
「俺はここに居る」
クリスに名前を呼ばれる度、優しく触れられる度、酷く安心する心と身体。この人が一緒に居て、不安なことなど何もない。あの夢はやっぱりただの夢でしかないと感じられる。
そして、この眼差しに見守られ、逞しくも優しい彼にいつも守られていることに気付く。
○○は静かに、クリスの頬に触れた。
「○○、お前もここに居る」
自分を見つめる彼の眼や、手の動き、そして、紡がれる言葉一つ一つに、目の前に居る男は、本当に優しくて大きい男だと思い知らされる。
彼の言葉に、○○の眼からは再び涙が溢れた。
「クリス」
ありがとう・・・優しいおっさん。
触れるだけの優しい口付けは、やがて深いものへと変わった。
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