しいおっさん

「俺はここに居る」

 静かな声と共に優しく包まれた○○の身体。

 春の温かな日差しよりも、沸かしたての風呂よりも、何よりも温かいクリスの温もり。

「○○、俺はここに居る」

「クリス・・・っ・・・」

 しゃくり上げる○○の背中を、クリスは優しくなでる。

 “どうしてここに居るの?さっきまでバナナ食べてたのに”、そんな風に言って涙を隠そうとしても、出てくるのは言葉ではなく涙だけ。そして、彼の存在を確かめるように呼ぶ彼の名だけ。

「いつだって傍に居る。どこにも行きやしない」

 身体全体に響き渡る、低く優しいクリスの声。

「○○、だから、泣かなくていい」

「っ・・・クリス・・・」

 あんな夢ごときで不安になるなんて、本当、バカみたい。クリスはゴリラになったりしないのに、ここにちゃんと居るのに・・・。

「クリ、ス・・・」

 それでも治まることのないどうしようもない不安と、優しいクリスの温もりと安心感に、○○はただ彼の胸で涙を流した。




「帰るぞ」

「・・・桜、見ないの?」

 帰ると言うクリスに、未だしゃくり上げながらも○○は言葉を発する。

「お前が泣いてる時に呑気に桜を見てられる程、俺はできた男じゃない」

 クリスは真っ赤になった○○の眼を優しく見つめた。

「桜なんかより、目の前のお前を見ていたい・・・」


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