しいおっさん

 嫌な夢を見た。

 クリスが居なくなる夢を・・・。いや、“居なくなる”という表現は正しくないかもしれない。形は変わっても、彼はちゃんと存在していたから。

 バナナを食べていたクリスが、ゴリラになってしまった。そんな夢だった。

 ゴリラになったクリスは、○○なんか忘れたようだった。忘れたと言うよりも、まるで最初から知らなかったようで・・・。形としてはクリスは存在した。ただ・・・そこに、いつもバナナを食べながらも○○を見るクリスは居なかった・・・。

 ふと、○○は自分の元へとやってきた桜の花びらに顔を上げる。

 目の前にある満開の桜の木。いつかは散ってしまうけれど、今はまだ散らないその桜。その花びらが、風に乗って自分の元へ来ただけのこと。

 『出会いと別れの季節』

 ・・・そんなんじゃないよ。ただあの夢にびっくりしただけ・・・!

 そう自分に言い聞かせても、涙はどんどん溢れてくる。

 違う違う・・・!『出会いと別れ』なんかじゃない・・・!

 今までのクリスと自分に、これからのクリスと自分に、こんな湿っぽいのは似合わない。ただ、変な夢を見ただけのこと。「嫌な夢」じゃなくて「変な夢」の間違いだ。そして、今の桜の季節が『出会いと別れの季節』だなんて言われてるだけのこと。必ずしも誰もがそうかと言えばそうではない。それに、今回見た夢と同じような夢も、自分は過去に見たじゃないか。バナナになってしまった自分をクリスが食べる夢を。そんな時、彼に話して一緒に笑ったじゃないか。

「もう、何なんだろ・・・これ」

 涙が止まらないや・・・

「・・・っ・・・クリス・・・」


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