しいおっさん

 雲一つない春の温かな日差しの中、○○とクリスはお花見に来ていた。

 やはり満開の桜を見たいと思う人は多いようで、桜の木の下にはブルーシートが敷かれていたり、家族で弁当を食べている人がほとんどである。

 その中を、○○とクリスは歩きながら桜を眺めている。時々吹く風を感じたり、日差しの眩しさに目を細めたり、桜の花の色の違いを見つけたり、色々な話をしたり。

「桜、綺麗だね」

「ああ、そうだな」

 しかし、「楽しい」や「綺麗」という感情だけにしてくれないのがお花見で。どういう訳か「もの悲しさ」がこみ上げてくるのもお花見だ。それは、いつか桜が散ってしまうからなのか、それとも、「出会いと別れの季節」だなんて言われているからなのか。

 ・・・そんなことを○○が考えていると、それをぶち壊す男が一人・・・。

 ○○の隣に居る男、クリス・レッドフィールドだ。美味しそうにバナナを食べ、もう片方の手にはバナナの房が幾つも入ったバナナ専用バスケットを持っている。

 これじゃ、猫に小判、豚に真珠、ゴリラにバナナだわ・・・!

 桜を見ると言うよりも、持ってきたバナナを見つめるといったクリスを、○○はすぐ傍でげんなりとした顔で見やる。

 何かもう・・・これって、桜が満開だから檻の中のゴリラにも見せてやろうとして、バナナで誘導して連れ出してる飼育員の人みたいじゃない!?

 ○○はじっとクリスの横顔を見つめた。しかし、クリスを見つめる○○の眼は、いつもとは違っていた。

 普段なら、呆れた顔をしながらも「ゴリラみたいだよ!」とか「危ないおっさんになってるよ!?」などと言って一笑できるはず。

 でも、どうやら今日はそれは不可能らしい。

 『出会いと別れの季節』、その言葉が○○の上に伸し掛かる。

 ・・・や、だな・・・涙出てきちゃった。

 ○○は溢れる涙に気付かれぬよう、クリスから顔を逸らした。

「ねぇっ、ク、クリス!ちょっと・・・あっち行ってくるね!」

 平然を装って、少し先らへんを指差し駆けて行く。“あっち”なんて言って、場所なんか特定しないで。


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