けるおっさん

「ク、クリス・・・」

 ○○はあまりの痛みに、起き上ることさえもままならない。

 チカチカとする視界の中、○○の頭の中ではついこの前クリスから聞いた、彼の部下であるピアーズのゲームセンターでの言葉が木霊していた。

―『あんたが3000円以内で取れると信じて応援してる○○さんが哀れでしょうがないよ!』

 うう・・・。今なら哀れなのは私じゃないと・・・言える。私からすれば・・・毎回毎回こんなタックル受けて吹っ飛ばされるピアーズさんが哀れでしょうがないわ!

「クリス!!!」

 テーブルの脚を掴みながら、○○はよろよろと起き上がる。しかし、やっと起き上がれたという時に目に入った光景に、またしても○○の顔は「終焉」に染まる。

 キッチンのドアのところで○○を吹っ飛ばしたクリスは、そのままドスドスと走り、冷蔵庫の中から冷やしてあったバナナの房を取り出していた。そして、その房から「ム〜ン!!!!!!」と一本を引き千切る。残りの房を高速で冷蔵庫に戻す。あまりにも力強く冷蔵庫の開閉をしたために扉が何回も跳ね返った程だ。クリスはバナナのヘタを銜えると「ヌゥアァァァァッ!!」と一気に顔を動かして皮を剥く。そのまま、剥がした部分が上に向き、水平になるようにバナナを持ち直した。「ふんっ!」っと、剥いた皮の間から身の部分を押し上げるように、クリスはバナナを持った指先に瞬間的に力を入れる。宙高く舞い上がり回転するバナナ。“縦も横もくるくると”そんな表現がぴったりだ。そのバナナがクリスの頭近くに降りて来た時、クリスはそのすばらしい演舞を見せたバナナを掴んだ。そして、腰に手を当てバナナをかじる。

「やっぱり風呂上りの冷たいバナナは最高だな!」

 このクリスの一連の流れは、時間にして1秒足らず。○○が吹っ飛ばされてから立ち上がるまでは、1秒よりもずっとずっと短い時間。その短い時間内で“やっとのことで起き上れた”という表現は適切かどうかわからないが、とにかく、起き上れたのにもかかわらず、○○が更なるダメージ、もとい「終焉」を感じたのは、クリスのこの動作をばっちりと見てしまったからである。

「クリスが弾けてる・・・」

 銭湯や温泉上がりに牛乳やコーヒー牛乳を一気飲みすることはよくあるだろう。しかしクリスは、風呂上りに腰にタオルいっちょうでバナナを食べるのだ。

 クリス本人は○○を吹っ飛ばしたことなど、これっぽっちも気付いていない様子でバナナを嬉しそうに食べている。いったい何の思い付きでこんなことをしているというのか・・・。仮に、思いついたらすぐ実行でも、何もドスドス走って来なくてもいいではないか。

「○○!風呂上りのバナナ!これはやみつきになるぞ!!」

 そう言って○○に笑いかけるクリスはキラキラと輝いていて弾けていた。


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