けるおっさん

―ドドドドドドドドド・・・!

「うぉうっ!何!?」

 突然起こった異変に、○○はテレビのリモコンを取り落とす。

 風呂場からキッチンまで大して長くもない家の廊下を、何者かがもの凄いスピードで走って来る。足音はドスドスとしていて、壁が崩れそうな程家が揺れている。“何者かが”と言っても、自分はリビングのソファーに座っている。となれば、そんなことをする人間は誰であろう、一人しか居ない。風呂に入っていたクリスに、いったい何が起こったというのか。廊下の床が抜けなければいいが。

「クリスーっ!?何やって―!?」

 クリスが開けるであろうキッチンのドアを開いた○○。しかし、視界いっぱいになってくる光景に○○の顔は瞬時に「絶望」という二文字に変わる。

 クリスがとんでもないスピードでこちらに向かって来た。しかも、腰にタオル一枚を巻いた姿で・・・。

 しかしそれだけでは終わらない。クリスは○○の目の前に来てもそのスピードを緩めない。○○の顔はもう既に「終末」に変わっていた。

「わぁあぁぁあっ!」

 凄まじい勢いで宙を舞う○○の体。そう、スピードを緩めないクリスが、目の前に居た○○を吹っ飛ばしたのだ。天井とキッチンのテーブルの間で弧を描くように飛ぶ○○。その全身は高速トリプル・アクセルをしている。

 この野生のゴリラに匹敵する男、クリス・レッドフィールドと一緒に生活するには、かわいい女の子でも野生の雌ゴリラにならなければいけない時がある。気持ちだけは。

 だって・・・体はクリスみたいになるまで鍛えられな、いっ!

「ぬぉわぁぁ!・・・う・・・・ぁ」

 ○○はキッチンの床に叩き付けられた。空中の高速トリプル・アクセルのせいで景色が見えなく、自分がどこで何をしているのかが全くわからなかった。○○は急に現れた床と体の衝撃に顔を歪めた。


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