激しいおっさん
「クリス、それ何?」
この言葉を言う時は、これから起こるできごとに期待などできない。そう思いながらも、○○は玄関にニコニコしながら立っているクリスに声を掛ける。
仕事から帰って来たクリス。そんな彼に抱かれている物。それは―。
「ゴリラのぬいぐるみだ!」
「―は?」
答えなど最初からわかっていたが、やはりマヌケな声を上げてしまう。
クリスはそのゴリラのぬいぐるみを○○の目の前に持ち上げ、腕を左右上下に動かしてウホウホ言っている。
“○○もだっこしてみるか?”と、まるで赤ん坊を扱うかのように○○にゴリラのぬいぐるみを抱かせるクリス。クリスが持っていた時に小さいのかと思っていたゴリラのぬいぐるみは案外に大きく、ぎゅっとするのに丁度良い程だった。
「ん〜かわいいね!これ!」
「だろ!?」
嬉しそうに笑うクリス。その笑顔につられ、○○も微笑んだ。
「でも、一体どうしたの?こんなぬいぐるみなんか・・・」
まさか仕事帰りに、いい歳したおっさんが急に欲しくなって、おもちゃ屋さんのぬいぐるみコーナーに立ち寄った訳ではあるまいと、○○は微笑んだ顔を元に戻す。
しかし、返ってきた答えは○○の予想をはるかに超えるものだった。
「ゲームセンターで取ったんだよ!!」
「―はい!?」
「ユーフォーキャッチャーだ!なかなか手強くてな!!時間が掛かったんだ!」
“仲間との間で話題のゲームセンターに、このゴリラのぬいぐるみがあるのが見えたんだ”とクリスは意気揚々に話す。
なるほど、それでいつもより遅い帰宅か。残業が長引く時や帰宅が遅くなる場合、クリスはいつも連絡を入れていた。その連絡が今日はなかった訳だが、ゲームセンターのユーフォーキャッチャーで、ゴリラのぬいぐるみを取るのに興じていた訳か。
「ピアーズも一緒にな!」
おいおい!ゲームセンターに部下を付き合わせたんかい!
○○の顔は、「表情メーター」が付いているとしたら、「呆れ」のところに差し掛かっている。
待てよ・・・。この大きさのぬいぐるみを取るのは相当難しいはず・・・。時間だけではなく、お金も掛かるはずだ!
「・・・いくら使ったの?」
「6300円」
今、彼は何と言っただろうか。『6300円』と聞こえた気がするのだが・・・。一回100円のユーフォーキャッチャーを63回もプレイしたのか!今の時刻は9時半過ぎで、クリスの出勤先であるBSAAは終業時刻は18時。家からオフィスまでは車で20分。今日は残業はなかったと言っていた。ゲームセンターがどこだかは知らないが、そのゲームセンターに3時間近くも居たことになる。
○○の頭には、BSAAアルファーチームの、しかも隊長とその部下が、ゲームセンターで3時間もの長い間、一回100円のユーフォーキャッチャーを63回もプレイしている姿が映し出されようとしていた。
「・・・クリス、ゲームセンターの物、壊したりしてない?」
「する訳ないだろう」
“実はな・・・!”クリスのその言葉で、○○は想像よりも早く、そして正しく、「ゴリラのぬいぐるみGET」の背景を知ることとなった。
「実はな・・・!」
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