HARD RAIN
―Snipe Of Love―

「ごめん、後任せていい?ちょっと外行ってくるわ・・・」

 上半身を起こした状態のまま、○○は店の外を指差した。

「○○、本当に大丈夫!?」

 △△は先程よりも心配な表情を○○に向ける。

「大丈夫だよ」

 ○○はゆっくりと立ち上がると、店の裏口からではなく、客が入る表ドアから駐車場の中央らへんへと向かう。

 元々怪しかった空模様。いつしか大雨になっていた。

 ○○は眼を閉じて空に顔を向ける。

「あ・・・気持ちいい・・・」

 風邪引くかな?んまぁ、いいや・・・。

 そう思ったのと同時に、舌打ちをする。

「車で帰れないじゃん」

 酒を、しかも原液をかなり飲んでしまった。今日の天気予報は知っていたため、車で来たのだった。もちろん、裏口から車までの少しの距離で傘を差すのが面倒臭いので、傘は持ってきていない。

 酒と雨の両方で濡れて額に張り付く前髪。体に纏わりつくワイシャツや制服類。肌着など、疾うに濡れて透けているだろう。両腕からは、沢山の血が流れている。よく見ると、大小様々な切り傷ができていた。しかし、そんなことはどうでもよかった。

 先日のBSAA見学の時、○○はピアーズとは世界が違うと感じた。しかしそれは、危機感なしに生活をしている自分とは無縁のような世界だという意味で、何となくそれが、自分とは住む世界が違うかのような、遠い物のように感じられただけのこと。

「受付の2人とあの酒乱は」

 明らかな罵倒だった。

 ニヴァンスさんも・・・そんな風に思って見てるのかな。

 そんな風に考え出したら、いつもピアーズは自分のことをそういった眼で見ているのか、いったい何を考えていつも仕事が終わるまで待っているのかなどと考えてしまい、もしかしたら、バカにして楽しんでいるだけではないかと、身体が熱くなった。この仕事が恥なんてとんでもない。しかし、様々な感情が押し寄せて、先程ピアーズが助けに来るのを拒んだ。ピアーズがそういう風に思ってたとしたら、そのような相手に、情けか同情かで助けてもらいたくなかったからだ。

 この騒ぎが起こる前、「顔見知り」と「知り合い」のことで○○がピアーズに感じた釈然としない思いも、無意識の内に、受付の2人からの罵倒を考えてしまっていたのだ。『住む世界が違うから、知り合いなど論外』というような。

「“住む世界が違う”か・・・」

 どうしてか、店の中からピアーズに見られているような気がした。○○はその場で眼だけを動かし、店の方を見つめた。

 大雨が強さを増したようだった。


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