HARD RAIN
―Snipe Of Love―

「○○、あの2人とは知り合いなのか?」

 そう言って料理を運ぼうとしている最中に話しかけてきたのは、カウンターに居るセバスチャンだった。

「知り合い」と言ってしまっていいのだろうか。先日のBSAA見学で、受付で挨拶をした時に居たのがその2人だっただけのことだ。「面識がある」もしくは「顔見知り」程度だろう。その2つの言葉を使ってよいのかも微妙なところだ。相手は自分を覚えていないかもしれないからだ。

 でも、覚えてるの前提で、さっきわざと挨拶しちゃったな〜。

 見学の時に聞いてしまった2人のあの会話から、なんとなく、『受付の2人は自分たちを忘れたりしないだろう』という思いが○○にはあった。

 しかし、今セバスチャンにそういうことを話すのも気が進まない。それに、これから運ぶ料理は、まさに話題の中の人物たちへの料理だった。

「え?あー、うん、まぁ・・・ね。ちょっとね」

 そう言って○○は笑った。

「それにしては、嬉しそうな顔してないよな?」

 当たり前だ。来て欲しくない人物たちが来てしまったのだから。

「そんなことないよ!!何か緊張しちゃってるの!!」

「知り合いなのに緊張するのか?」

「知り合いだからこそ、緊張ってしちゃうんだよ!!」

 知り合いが客として来た時、なぜかその知り合いに緊張することはないだろうか。全く緊張しない知り合いも居るが。特にあの2人に緊張している訳ではないが、○○は“嬉しそうな顔してない”と言われたことに対するいい返答だと、心の中でしみじみと感じた。

「お待たせ致しました〜」

 笑顔で受付の2人が居るテーブルに近づけば、すぐ隣のテーブルに居る男が目に付いた。その男性は身体を2人の方に向け、どうやら会話に加わっているようである。

「あ・・・申し訳ございません!もしかして、お連れ様でいらっしゃいましたか?」

 2人からは後から連れが来るということは聞いていなかった。それ故、2人席に案内したのだが、連れが急に来たということもありえる。

「いいえ。違うんですよ。彼女たちのテーブルの隣に案内して頂いて・・・すごく楽しそうな会話が聞こえたものですから、つい会話に加わってしまって」

 男は言いながら、彼女たち2人を見て照れたように微笑んだ。

「そうだったのですね」

 ○○は頷きながら微笑むと、目の前の2人に目を向ける。2人もまたー○○を見て微笑んだ。どうやら男の言っていることは嘘ではないらしい。

「あ、テーブルくっつけます?」

 2人のうち1人が男に訊いた。

「いいえいいえ!それは大丈夫です!そんなことをしてしまっては、せっかくのあなたたち2人の時間がもったいない!」

 男は胸の前で両手を左右に振ると再び照れたように笑う。

「―では、ご注文等ございましたら、またお呼び下さいね」

 ○○は3人に頭を下げるとその場を後にする。

 メガネを掛けた、スーツにネクタイの男だった。感じがよく、誠実そうにも見える。そんな男と会話を弾ませることになり、彼女たち2人は上機嫌になっているようだ。店に来た時に○○に向けた表情とは随分と異なっていた。

 “いったいどんな仕事してるんだか!”を見に来たんじゃないのかねぇ・・・ま、いいか。

 そんな時、ふとカウンターのセバスチャンが目に入り、先程の「知り合い」という言葉が蘇る。

 そういえばセバスチャンて、いつぐらいからここに来るようになったんだっけ・・・。

 いつぐらいから会話をするようになり、名前で呼ばれるようになったのか。そんなことを考えながら、○○はカウンターを通り過ぎる。そして、いつものテーブルが視界に入ってくる。

 ニヴァンスさんは・・・?

 最近ピアーズとは親しくなりつつある。「顔見知り」と言うよりも「知り合い」の方が正解だろう。

 あれ・・・?

 ただ単にふと思った、深い意味のない物のはずだった。何でもかんでも、知り合いだとか顔見知りだとかでは分類などしないし、また、できない物である。しかし○○は、今のピアーズに対しての自分の考えに、釈然としない思いと違和感を感じた。

「―い!おい!」

「んぁ!?」

 急に聞こえた声に反応すれば、視界の中で座っていたはずのピアーズがすぐ真横に居て、こちらを覗き込んでいた。

「あんた、大丈夫?」

「え!?あ、あ!!大っ丈夫です!!!全然、平気!!」

 何か難しいことを考えてた気がするな。いけないいけない!集中集中!!

「俺には大丈夫そうには見えないけど」

「何言ってるんですか!大丈夫ですよ!すみません、心配して頂いて」

 ○○は元気よく笑うと厨房の方へ向かう。その背中を、ピアーズは物言いたげな顔で見つめた。


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