―Snipe Of Love―
「○○ちゃん!△△ちゃん!!」
△△・クリスと合流し、アルファチームオフィスに入れば、真っ先にマルコが声を上げる。そして、頼んでもいないのに前へ出て2人の紹介を始める。
「いいかみんな!○○ちゃんと△△ちゃんはな!―」
せっかくだが、マルコお手製とクリス直書きの来訪者カードは上着のポケットにしまうことにした。これにはもちろん、ピアーズとクリスの意見も含まれている。マルコには、後でピアーズがたっぷりと仕返しをするということになった。
「2人はSTANDING ALONEていう店で―」
得意げな顔で話すマルコ。
STANDING ALONEはBSAAの溜まり場なので、知らない者は殆ど居ない。しかし、改めてその名を出され、行ったことがない人からは「今度行ってみようか」などという声が上がる。
遠くでフィンとベンが小さく手を振っているのが見える。○○と△△も小さく振りかえす。
こうしてBSAA見学は終わっていく。
帰り間際のことだった。正面玄関のトイレを借りた○○と△△に、何やら女性の話し声が聞こえてきた。
―ねぇ、あの時の聴いた?
―聴いた聴いた!『デキる女』だって!!
―あの娘たち、飲み屋の娘でしょ!?ムリムリ!!オフィスワークなんて!!
この話を知っているのは、受付に居た2人の女性以外考えられない。○○はトイレの入り口からそっと顔を出した。彼女たちは受付から少し離れた所で伸びをしていた。BSAA終業時刻の30分前なので、来訪者はもうすでに帰ったと思っているのだろうか。ピアーズが最初に持っていた正規の来訪者カードは、前もって受付に言って借りていた物で、使い終わったら返却する物なのに、それがまだ返却されていないことに気が付いていないのだろうか。
“飲み屋”じゃなくて、昼間は喫茶店で夜はバーになるんだけどな・・・。
―困るよねぇ!スーツ着ただけで“BSAAの事務職員”だなんて言われちゃ!
―大体さぁ、あんな飲み屋で働いてる娘とBSAAじゃ、住む世界が違うし身分が違うんだって!
その言葉に、○○ははっとする。
―ホントホント!あっ、ねぇ!今度あの娘たちのお店に行ってみようよ!
―いいねぇ、それ!!いったいどんな仕事してるんだか!
笑う受付の女性たち。
この女性たちの会話をクリスとピアーズもしっかりと聴いていた。正面門まで○○と△△を送ると言って2人を待っていたのだ。しかし、ピアーズとクリスの居る場所は、受付の女性たちが今居る所からは死角になってしまう場所だったのだ。
「隊長・・・!」
「あぁ・・・!」
○○は溜息を一つつくと、隣で会話を聴いていた△△に顔を向ける。
「行こうか―」
「うん―」
そして、クリスとピアーズの前ではそんな会話は聴いていないかのように笑顔を見せる。
「今日は本当にどうもありがとうございました!」
正面門で礼を言う○○と△△。
「こちらこそ、どうもありがとうございました!」
最初と同様にクリスとピアーズは敬礼をした。
○○と△△を見送ると、クリスとピアーズは受付に向かう。ピアーズは正規の来訪者カードを2つ見せると、無言の睨みを効かせて受付台に置いた。
クリスは静かに口を開く。
「“いったいどんな仕事してるんだか”っていうくらいだから、自分たちはしっかりと勤務してるんだよな?」
一瞬にして青ざめる女性たち。
「二度と言うな」
ピアーズはそう冷たく言い放つと、クリスとともにアルファチームオフィスへと足を向けた。
[ back to top ]