―Snipe Of Love―
「いらっしゃいませ〜!あっ!二ヴァンスさん!!」
ピアーズがSTANDING ALONEのドアを開けると、○○が元気よく駆け寄って来た。
「おはよ!」
「おはようございます!」
ピアーズは○○に笑いかけると、カウンターの椅子を引く。他にまだ客の居ない店内に、床と椅子が擦れる音が低く響いた。
「ホットコーヒーのブラックと、ええと・・・」
ピアーズは傍にあったメニューを手にとり、パラパラとページを捲る。いつもこの店に来るのは夜だったので、朝のメニューは知らなかった。
「あんたのおススメは?」
「スクランブルエッグです!!」
○○はにっこりと笑うとピアーズの持つメニューを指さした。オレンジジュースとベーコンの付いたスクランブルエッグの写真が眼に入る。
「じゃあそれで頼む!」
「はい!・・・・・・あ、二ヴァンスさん!」
店のホール側にある冷蔵庫から卵を幾つか抱えた○○が、笑顔で戻って来た。
「このスクランブルエッグ、私が作ってもいいですか?」
「“私が作ってもいいですか”って・・・普段はあんたは作らないのか?」
「食品その物を焼いたりとか煮たりとか、そういうことをしない物なら作るんですけど・・・ええと、デザートのパフェとか・・・。でも、やっぱり調理って調理師がやるでしょ?ウエイトレスが調理して何かあったらいけないし・・・」
更に○○は続ける。
「私、スクランブルエッグとかの朝メニューって家で作るから得意なんです!!・・・だから、これは仲のいい人とか友達にしかお願いできないんですけれど・・・私が作ってもいいですか?」
やべぇ・・・かわいい・・・!
ピアーズは○○の言った“仲のいい人”という言葉にキラキラした笑顔を作る。それに、○○が作るということは、彼女の手料理を食べられるということではないか!
「いいに決まってるだろ!」
「ありがとうございます!!」
少しすると、厨房からベーコンが焼ける匂いが漂ってきて、ピアーズの鼻をくすぐる。そして、○○の楽しそうな声が聞こえてきた。
「二ヴァンスさ〜ん!玉子って甘い派ですか〜?それともそのまま派ですか〜?」
その声に、ピアーズもまた楽しそうに返した。
「甘い派〜!!」
「ごちそうさま!あんた、料理うまいんだな!」
○○が作ったスクランブルエッグを食べて他愛もない話をしていれば、早めに出勤しようと思っていた時間はすぐにやってきてしまった。
「本当、すごくうまかった!!」
また作ってくれよ!!俺だけに!!
「本当ですか!?どうもありがとうございます!!」
嬉しそうに笑う○○を見て、ピアーズは今日の夢のキスシーンを思い出した。
こういう時に「じゃあ、行って来るな」なんて言って、ほっぺに軽くキスなんてのもいいよな・・・。
「―じゃあ、俺、行くわ」
来た時と同様に椅子を引く音を響かせるピアーズ。ドアの所まで行くと○○を振り返った。
「3時に正面玄関で待ち合わせな」
「はぁい」
「じゃあ、行って来る!」
「行ってらっしゃい!」
ピアーズは元気よく自分の車の所へ駆けて行った。
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