行き過ぎた悪戯
―Snipe Of Love―

 はぁ・・・。

 ぎゅうぎゅうと、先程よりも更にピアースと密着する身体。マルコに押される度に「すみません」だの「ごめんなさい」だのと謝るために眼を合わせるのが、ものすごく気まずくてならない。○○はもう謝るのさえも疲れ、ただ苦笑することしかできなかった。

「二、二ヴァンスさん・・・」

 どうしましょ・・・。

 本当に、これ以上は詰められない。○○はいよいよ困り果てた顔をした。

 その時だった。

「トイレ!」

 ピアーズは急に立ち上がると、“トイレ”と言いつつも、○○の手を引っ張って店の外へと向かう。突然のことにマルコとフィンが驚いたような顔をしているが、ピアーズは全く気にしないで2人に前をあけるよう手で促す。

 つい先程まで密着するのが密かに嬉しかったピアーズだが、さすがにこれは行き過ぎだと感じていた。○○と同様、ピアーズもフィンの座る所がどれくらい狭いのかが見えないために何とも言えないが、一歩間違えればセクハラの領域に達するところだ。○○の“二、二ヴァンスさん・・・”と、困ったように自分を呼んだのがかわいくて、もう少し見ていたいような気もしたが、早くこの状況から救出する方が先だった。

 店内のマルコたちから見えないように駐車場の中程まで来ると、ピアーズは足を止めて○○を見つめた。

「あんた、大丈夫か?」

「あ、はい・・・!大丈夫です!」

 ○○は店を一度振り返ると、ピアーズへと顔を向ける。すると、ピアーズが申し訳なさそうな表情をしていた。

「ごめんな。マルコの悪戯だな、ありゃ・・・」

「マルコさんの・・・悪戯・・・?」

「あぁ。明日よく言っておく」

 ピアーズも店の方にちらりと眼を向けると、一瞬だけ眼を鋭くさせた。

「帰るぞ」

「え?」

 握ったままの○○の手をくいくいっと引っ張るピアーズ。しかし、○○は心配の声を上げる。

「いいんですか?二ヴァンスさん?・・・打ち合わせは・・・」

「いいんだよ」

 ○○が言い終わらないうちに、ピアーズは手を引いて歩き出す。

「打ち合わせしてもしなくても・・・どっちにしろ、あんたにメールしようと思ってたから・・・!」

「あ・・・ありがとうございます!」

 ○○は照れたようにピアーズの背に向かってお礼を言うと、ゆっくりと帰路に踏み出した。




「そうだ!二ヴァンスさん!『リスさんとミッチェル歯科医院』って知ってますか?」

「何だそりゃ。聞いたことないな」


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