―Snipe Of Love―
「・・・二ヴァンスさん・・・私・・・今日、車なんですけど・・・」
「・・・は・・・?」
ピアーズは○○を見つめながら眼をぱちくりさせる。そして少しすると、その表情はだんだんと険しいものへと変わった。
「・・・あんた、歩きで来いよ・・・っ!」
○○と一緒に歩きたかった。本当は、手なんか繋がなくたっていい。相合傘だってしなくたっていい。ただ一緒に過ごしたかった。
「な、何でっ!?」
ピアーズがそんなことを思っているなどと、これっぽっちも知らない○○は、ピアーズを見つめながら驚いた顔をする。
「・・・あ、あんたっ!この傘やるよ!!」
ピアーズの頭には、仲良く相合傘の図しかなかった。○○と一緒に過ごせると思うと嬉しくて、彼女が閉店まで仕事の日は車で出勤しているということを、すっかり忘れていた。
自分の失態に気付いたピアーズからすれば、恥かしいことこの上ない。差していた傘を勢いよく○○に渡すと、雨の中に躍り出た。
「いや、大丈夫ですよ!私は今日、車ですってば!!二ヴァンスさんが使って下さい!!
「俺も車だから大丈夫だ!!あんたが使え!!!!」
車で来たから傘は必要ないという○○の言葉を全く聴いていないピアーズ。“向こうに停めてあるから!じゃあ、俺行くわ!!”と親指で示し、“向こう”の方へと走り出した。
「二ヴァンスさん!!傘―!!」
駆け出したピアーズを○○は急いで追いかける。しかし、彼の走るスピードの速いのなんの。決して追い付ける速さではない。そして・・・。
「二ヴァンスさん、どこに車停めたの!?」
どんどん小さくなるピアーズの後ろ姿。“向こう”に車を停めたと言ったのに、その“向こう”に着いても走り続ける彼に、○○は目を丸くする。
ピアーズは咄嗟に、店の近くに停めたような雰囲気で“向こう”と言ったが、本当はBSAAオフィスの駐車場に車を停めたのである。“向こう”で止まれる訳がない。
「・・・二ヴァンスさんの方が傘、必要なんじゃ・・・はぁ・・・」
ピアーズから自分の車に視線を移すと、○○は小さくため息をついた。
「どうしよう・・・この傘・・・あれ?値札付いてる・・・・・・あっ!!二ヴァンスさん、もしかして!?」
ずぶ濡れだった彼。真新しい値札の付いた傘。もしかしたら、彼はわざわざ傘を買ってきてくれたのかもしれない。そう思い、○○はもう一度ピアーズの方を振り返った。しかし、もう既に彼の姿はなかった。
「・・・でも、まさか・・・ね」
○○は“そんなこと、ある訳ないよ”と視線を戻すと、静かに車へと歩き出した。
“そんなこと、ありまくる”ということを、○○は知らない。
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