5月の雨
―Snipe Of Love―

「お疲れ!!!!」

「うわっ!!」

 仕事も終わり、いつものように裏口から出て来た○○。最近この場所でよく聞く彼の声。しかし土砂降りのせいか、それに負けまいとする彼の大声に○○は悲鳴を上げた。

「二ヴァンスさん!!・・・何でそんなに気合入ってるんですか!?―ってびしょ濡れじゃないですか!!

 傘を差しているにも関わらず、びしょ濡れのピアーズ。駆け寄った○○が驚いた顔をした。

「二ヴァンスさん!何で傘差しててこんなに濡れてるんですか!」

 普通に傘を差していれば、こんなに濡れないはず。○○は思わずバッグからミニタオルを取り出すと、ピアーズの頬に流れ落ちる滴に手を伸ばした。

 ピアーズはそんな○○に目を細めると、静かに言葉を発した。

「帰るぞ」

「・・・え!?・・・」

 ○○は手を止め、ゆっくりとピアーズを見つめる。ピアーズもまた、ゆっくりと○○を見つめた。

「ほら、早く帰るぞ。いつまでもこうしてると冷えるぜ?あんたは冷え症なんだからな」

 ○○を見つめるピアーズの眼は、酷く優しいものだった。

 ピアーズは自分の頬のところにある○○の手にそっと触れる。そして、その手に先程買ったホットレモネードのボトルを持たせた。

「二ヴァンスさん・・・」

 自分の身体を心配してくれるピアーズを、○○は素直に嬉しいと感じた。

 見つめ合ったまま、いい感じの雰囲気が2人を包み込む。暗い夜に、外灯の灯りが2人のシルエットを浮かび上がらせる。土砂降りの雨の中、1つの傘の中に2人。互いの体温を感じられる距離。ピアーズの鼻筋を伝った滴がキラリと光り、○○の襟元へと落ちて行った。

 しかし・・・。

「・・・二ヴァンスさん・・・私・・・今日、車なんですけど・・・」

「・・・は・・・?」

 ・・・雰囲気ぶち壊し。


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