ある街の、人がそれ程少なくも多くもない場所にあるSTANDING ALONEという店で●●○○(23歳)は働いている。昼間は喫茶店だが、夜になるとバーにもなる店だ。しかし、バーになったからと言ってもそれらしい制服に変わったりはせず、昼の制服を引き継いで至ってシンプルな恰好をしていた。
○○はこげ茶色の肩より少し下まである髪を一つに束ね、結んだゴムの上からシュシュをしている。そして、制服の真っ白いワイシャツの第一ボタンだけを外し、袖を七分丈の長さになるまで綺麗に織り上げ、黒色の足首まであるサロンエプロンをして革靴を履いている。
○○が働く店、STANDING ALONE・・・BSAA北米支部のオフィスからそう遠くないこの店は、彼らの溜まり場でもあった。
「お待たせ致しました〜!」
○○はにっこりと笑いながら、注文された酒を4人掛けのテーブルの手前側に座る前髪の立ち上がった青年の前に置いた。最初は仲間が3人で来たのだが、後からこの青年が加わったのだ。その後から来た青年は「あんたの酒を頼む」と○○に言ったのだった。○○にとって、“あんたの酒”とは、今まさに彼の前に置いた酒しか指さない。何と言ったって、この酒は○○が考えたものだからである。このことは、店に来る客なら大半が知っていた。
○○が考え、そして作った酒―。彼女の色素の薄い茶色い目のような色をしたウイスキーが、大きな丸い氷の入ったウイスキーグラスの中程まで入っている。そして、氷の上にピンク色の一口サイズのハート型ゼリーが乗せてある。味はもちろんのこと、氷が解けるとグラスと氷の間から酒に沈むハートがかわいいと言われ、特に女性から大人気だった。
店にこの酒を出すようになってからは、店員なら誰でも作れるこの酒であるが、創案者は味が多少違うだとか、何だとか、色々あるのだろうか。その創案者に向かって、この青年のように“あんたの酒”と、しかも男性がわざわざ注文するのは、珍しいことだった。
「ごゆっくりどうぞ〜」
○○は再びにっこりと笑い、お辞儀をする。
前髪の立ち上がった青年は、新たな客に呼ばれ遠くなる○○の背中を見て嬉しそうに微笑むと、ゆっくりと目の前の酒に視線を移した。
「『スナイプ・オブ・ラブ』・・・か・・・!」
そう、○○が作った酒の名は「―Snipe Of Love―」と言う。解けた氷とグラスの間にゼリーが沈むのは、恋に落ちた瞬間を表しているのだ。その時の気温や飲む人の速さによって氷の解け方が異なるので、グラスとの隙間のでき具合も異なる。その隙間でゼリーが一気に沈むか、ゆっくり沈むか・・・すぐに恋に落ちるか、徐々に恋に落ちて行くか・・・。氷が解けてグラスに当たった時に鳴る“カラン”という音は狙撃音を表していて、その音がした瞬間にゼリーが沈む様は、正しく「愛の狙撃」と言えよう。そして、「Snipe Of Love」の前後に付いている「―」は、弾丸の通り道、つまり、飛んでいく弾丸の動きを表しているのである。
― Snipe Of Love ―
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