何だ!?この感想は!私は変態か!?
―Snipe Of Love―

 △△の携帯の画像には、手を繋ぐ○○とピアーズが写っていた。背面から撮られたものであるが、手を繋いで歩く後ろ姿、手を繋いだまま見つめ合あう姿、優しく微笑んでいる姿、繋いだ手のアップや、見つめ合った二人の顔のアップまで色々ある。何を隠そう、この画像は、つい先日の○○とピアーズである。

「・・・これ、いつ撮ったの?」

「この前だよ〜!!何かいい感じだから撮っちゃった!!」

 おいおいおい!撮るなよ!!

「よくぞまぁ、こんなに沢山撮ったね、△△」

「うん!○○とピアーズさん、ずっと手、繋いでたからね!」

 だからってこんなに撮るなよ!!

「ぶっ!!!」

 ○○と△△の会話の中、突然聞こえた音。慌てる気持ちを静めようと水を飲んだピアーズが、“○○とピアーズさん、ずっと手、繋いでたからね!”という△△の言葉に反応して、口に含んだ水を噴き出したところだった。ピアーズの顔は真っ赤である。

 ○○は画像に目を奪われていた。

 画像は、繋いだ手のアップや、見つめ合った顔のアップ、そして後ろ姿など、綺麗に撮れている。手ブレはないし、アップなのに画像が荒くない。これは・・・。

「光学何倍ズームで撮ったの?」

「おい!そっちかよ!!」

 ○○の質問に、ピアーズが突っ込みを入れる。

 なぜ写真を撮られているのか。画像を見ているうちに思考が別な方向へ行ってしまった○○。ピアーズの声に顔を上げれば、彼と眼が合った。

 携帯の画像に写っていることを、手を繋ぐということを、彼と自分はした。そして、なんと目撃者がここに居て、更に、このテーブルに居る人たち全員はこの画像を見てしまった。

 ピアーズと眼を合わせた○○は、自分の顔が熱くなっていくのを感じた。

「○○!どうだったの?感想は!?」

 画像を見つめる○○を、△△が覗き込むようにして訊いた。その顔は、凄く楽しそうである。

 感想かぁ・・・。二ヴァンスさんの手、あったかくて気持ちよかったなぁ・・・。

「・・・き・・・気持ちよかった・・・」

 ・・・って違う違う!これじゃ何か別のことの感想みたいじゃないか!

「間違えた!違う違う!・・・ええと・・・」

 訂正して言葉を探す○○。ちらりとピアーズを見て少し考えた後、△△に眼を向けた。

「・・・よ・・・よかった・・・?」

 言った瞬間に“しまった!”という表情をする○○。テーブルの男たちはみんな、顔を赤くして視線を泳がせている。ピアーズに至っては、テーブルに突っ伏して小刻みに震えている。耳まで真っ赤にして。

 ○○の感想は「ピアーズの手が温かくて気持ちよかった」だった。あの日、自分の手を握ってくれた彼の手はとても温かく、心地よいものだった。それをこの場で素直に言おうか迷ったのだが、どういう訳か結局、言い方を間違えた。“気持ちよかった”や“よかった”の言葉では、手を繋ぐ行為ではなく、「別の行為」を想像させてしまうのも無理はない。

 そういう行為をしていないのはわかっていても、つい想像してしまうもの。つまり、テーブルの男陣の脳内では、素っ裸の○○の上に跨る素っ裸のピアーズが再生されているのだ。

「だぁ〜!違う違う違う!!」

 何だ!?この感想は!私は変態か!?

 ○○は無意識で言い間違えた自分の発言に驚いている。何てことを言っているのだと心の中で苦笑しつつため息をついた。

「○○・・・そんなにピアーズさんがよかったんだね」

「うん・・・って!ちっがーう!!」

「でもさ、いいな〜○○!こんな風にツーショット!!まるで恋人だよ〜!!」

 笑っていた△△が急に羨ましそうな顔をする。きっと彼女はクリスと写真を撮りたいのだろう。“私もこんな風に撮りたいな”とポツリと呟いた。

「恋人?・・・あ〜、本当だ!!」

 数秒前の焦りも忘れ、きょとんとしながら、○○が携帯の画像を再び見つめる。確かに、写真の中の自分とピアーズは本人たち以外の人から見れば、間違いなく恋人に見えだろう。

「ぶっ!」

 またもや聞こえた音。ピアーズは再び水を噴き出していた。○○の口から出た、自分たちが恋人に見えるという発言に嬉しくも驚いている。

「△△も撮ればいいじゃん!ほら!・・・クリスさん、いいですか?」

「え?えぇえぇ!?○○!?」

 ○○は、驚く△△をクリスの横に座らせる。もう少し寄って下さい・・・と言って、手に持っていた彼女の携帯のカメラを構えた。そして、○○は△△にニッと笑う。

「お返しだよ」

 ○○のその言葉と共に、カメラのシャッターが切られた。


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