―Snipe Of Love―
「いいな〜二ヴァンスさんの手・・・」
歩き始めて少しすると、○○が何気ない一言を発する。
「・・・あったかくて・・・」
○○は自分の手を握る彼の手を見つめた。自分よりもずっと大きくて温かいピアーズの手。少し湿ってはいるが。
「こんなにあったかいの、羨ましいです!ずっと・・・握ってたくなっちゃいますよ・・・!」
握っていたいという言葉に深い意味はない。ただ単に、冷え症の○○からすれば、温かいピアーズの手が羨ましいというだけのこと。
「・・・二ヴァンスさん、も、もう、あったかくなったから離してくれて大丈夫ですよ。どうもありがとうございました!」
「またすぐに冷えるだろ」
手を離して大丈夫だと言う○○。しかしピアーズはその手を離そうとしない。
○○はこの手を早く離して欲しくて堪らなかった。ピアーズに手を握られるのが嫌ということではない。ただ単純に気恥かしかった。こうして手を繋いで歩いているのが。冷たい自分の手を温めようと、ピアーズが握ってくれているのが。
「・・・ずっとこうしてると・・・」
そして、理由はもう一つあった。
「・・・手を・・・離したくなくなっちゃうじゃないですか・・・!」
○○はピアーズに苦笑した。
この○○の言葉も深い意味はない。冷え症にとっては羨ましすぎる温かい手は、いつか離れてしまう。するとすぐに自分の手はまた冷たくなり、その温かい手を欲してしまう。そうなる前に、自分の手が温かくなる前に、この手を離したかった。
ピアーズは握った彼女の手を感じていた。この前桜を見に行った時にも感じた、自分よりもずっと小さくて冷たい○○の手。自分よりもずっと細くて長い指。
○○の言葉が冷え症であるが故の何気ないものだということを、ピアーズはわかっている。しかし、この彼女の手を守るのは、○○を守るのは、やはり自分しか居ないと思った。
「じゃあ・・・俺の手・・・ずっと握ってろよ」
本当は、ずっと握っていたいのはピアーズの方である。
「手が冷たかったら、俺を呼べよ・・・」
本当は、冷たくてもそうでなくても、いつだって呼んで欲しい。
ピアーズは立ち止まり、○○を見つめた。
「あんたの手、ずっと握っててやるから」
ピアーズはそう言うと、再び歩き出す。
○○はそんなピアーズを見て一瞬驚いた顔をするも、小さく笑った。
こうやって手を握られ、おまけにそんな言葉まで貰い、恥かしいというか、照れるというか・・・。でも、せっかくだから、お言葉に甘えるべきかもしれない。
○○は辺りを見回した。こちらを見ている人はいない。
「二ヴァンスさん、甘えついでに・・・もう一ついいですか・・・?」
嬉しいこの言葉。ピアーズは歩き出した足を止め、○○に顔を向ける。
「もう片方の手も・・・いいですか?」
つまりは、繋いでいない方の手も温かくして欲しいということ。大好きな○○のかわいいお願いをピアーズは断る理由がない。
「いいに決まってるだろ・・・!」
ピアーズは繋いだ手はそのままにして、空いている手を差し出した。
「両手繋いで歩くんですか!?」
両手を繋いだら、向き合う形になるのでカニ歩きになってしまう。○○は思わず笑いを零した。
互いに場所を換わると、ピアーズはそっと○○の手を握る。やっぱり緊張して湿っぽいピアーズの手。しかし、その手の熱で○○の手はすぐに温かくなった。
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