―Snipe Of Love―
ピアーズが運転する車の助手席で、○○は店での△△との会話を思い出していた。
―『もしかして“こんなこと”もある・・・かもよ?』
―『押し倒されたらどうする〜っ!?』
―『そしてそのまま・・・!』
○○はハンドルを握るピアーズの横顔をちらりと見つめた。
“押し倒す”なんてことを、ピアーズはしないだろう。しかしこれは自分の予測にしかすぎない。彼のことを知った上で「絶対にしない」と断言できたものではないのだ。それに、自分は行先も聞かずに約束をしたのだ。現にこうして彼の車に乗っている。先程の△△が言った“そしてそのまま・・・”の後には、冗談ではあるが「ホテル」という言葉が入るのだろう。軽い女だと思われ、彼を悪く言えば、“あわよくば、そういう展開を狙っている”ということも“ない”とは言えないのだ。そう、ピアーズのことを自分は何も知らないのだ。
相手のことをそんな風に考えるなんて、最低だと思うかもしれない。しかし、“何か遭ってから”では済まされない。
せめて行先を聞いてから約束すればよかったな・・・。
それとも、自意識過剰だと、考えすぎにも程があると笑い飛ばせばいいのか。
○○は小さくため息をつくと、ピアーズの横顔から自分の横にある景色へと視線を移した。
いつの間にか、車は隣町にある桜並木の道路へと差し掛かっていた。街灯に照らされた桜が淡く美しく光っている。
「しないから」
「えっ!?」
突然聞こえたピアーズの声。驚いたように○○が顔を向ければ、赤信号でブレーキを踏んだピアーズが○○を見つめた。
「あんたが嫌がったり怖がったりすることを、俺はしないから」
まるで○○の心を読み取ったかのような彼の言葉。ピアーズはそれだけ言うと、再び前を向き、車を発進させた。
車はやがて桜並木を抜け、その先に広がる公園の駐車場へと入って行く。
ピアーズは車を停めサイドブレーキを引いた。
「ついて来て」
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