あんたが嫌がったり怖がったりすることを俺は絶対にしないから
―Snipe Of Love―

「お疲れ」

 店の裏口を出た○○。聞こえた声の方を向けば、すぐそばにある外灯からピアーズが寄り掛かった体を起こし、こちらにやって来た。

「お疲れ」

 ピアーズはこの前と同じように缶コーヒーを手渡す。

「二ヴァンスさん!お疲れ様です!・・・貰っていいんですか?」

「ああ。それより・・・乗れよ」

 礼を言って缶コーヒーを受け取った○○に、ピアーズは肩越しに親指でちょいちょいと車を示す。

 ピアーズに笑顔を向けたものの、○○には気掛かりなことがあった。それは、この後のことである。実を言うと、△△と先程のような会話をする前から、彼と出かけるこの約束を断るべきだったかと悩んでいたのだ。自分が彼の服を汚してしまい、クリーニング代の代わりということで約束してしまったのだが・・・。

 男の人とこの時間はマズイよなぁ・・・まして2人きりって・・・。

 カップルならば、夜の10時など何でもないかもしれない。しかし、自分とピアーズはそういう関係ではない。話し始めたのはつい最近だし、その前なんかは、はっきり言って酷いものだったのだ。昼間にでさえ2人きりで出掛けるような親しい関係ではない。

 このドアを開けていいものか・・・。○○は助手席のドアに伸ばした手を止めた。

 そんな○○の様子を感じ取ってか、ピアーズが「どうした?」と声を掛ける。

「な、何でもないです」

 ○○は誤魔化すように小さく笑うと意を決したようにドアを開いた。

「・・・二ヴァンスさん・・・この前言ってた『行きたい所』ってどこなんですか・・・?」

 ○○は躊躇いがちにシートベルトを締めながら、エンジンをかけるピアーズを見つめる。

「秘密」

 ピアーズはそう言って○○に笑い掛けると、ギアーをローギアに入れた。


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