―Snipe Of Love―
「・・・あんた、俺を避けてないか?」
「・・・は?」
予想をはるかに超えたピアーズの言葉。「怒る」や「罵声」といった類のものに緊張していた○○の顔は、全く読めない彼の言葉のお蔭で不格好に口が開いてしまった。
いきなり何を言い出すのか。避けるも何も、ピアーズがそうさせたのではないか。何と言ったって、自分はピアーズに嫌われているのだから。
そもそも、好きで近寄らない訳ではない。彼の仲間と楽しく喋る中で、本当は○○は少しくらいピアーズとも喋ってみたかった。しかし、彼はいつも黙って眼を逸らしたまま。誰にでもそういう態度かと思えば違い、同じ店員である△△とは楽しそうに喋っている。それでさえ、嫌われていることが確定なのに、遠くから睨まれているような鋭い視線や、無言で嫌いを促すような瞬きに、近寄れる訳がなかった。
「避けてませんよ?」
近寄ることすらできないのに、避けることなどできる訳がなかった。そんな中で避ける必要など、どこにもなかった。
○○はピアーズに向かって首を傾げる。
「でも、あんたは・・・あんたは最近、俺たちのテーブルに来なくなっただろ?」
静かな駐車場に響く、ピアーズのどこか寂しげで戸惑ったような声色。
ピアーズは、自分のしていたことがこのような状況を招いたということに気付いていない。しかし、いつも○○を見ているため、彼女が自分の方へ来なくなったことは嫌でもわかっていた。
「二ヴァンスさんに・・・嫌われているんだと思って・・・」
○○はちらりとピアーズを見ると、駐車場のコンクリートにゆっくりと視線を落とした。
今まで合わせられることのなかった彼の眼が、まっすぐに自分を見つめている。嫌われていることは間違いないのだが、なぜかそれを、その眼に言うのが躊躇われた。
「・・・俺が、あんたを嫌う・・・?」
下を向く○○を、ピアーズは目をパチパチさせながら見やる。
自分は○○が好きで、何としても仲良くなりたくて必死にアピールしていたのだ。そんな自分に対し、その相手は「嫌われている」と思っていたなんて。
そんなこと、ピアーズにとっては「絶対に有り得ない!!」の一言でしかない。
何としても誤解を解かなければと、ピアーズは足早にズカズカと○○との距離を縮める。
急に近付いたピアーズに、○○は「うわっ!」と悲鳴に似たような声を上げた。
「いやいやいや!そんなことないっ!だって俺―!」
「あんたが好きなんだから!」そう言いそうになって、ピアーズは大きく開いた口を急いで閉じる。そして、真っ赤に染め上げた顔を○○に気付かれぬよう、そっぽを向いた。ごまかすようにジャケットのポケットに手を突っ込み、もう片方の手は、ガシガシと頭を掻く。
「普通に接してくれ!」
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