―Snipe Of Love―
「なぁ、ピアーズ・・・この前のアイツ、いったい何だったんだろうな・・・?」
ピアーズの隣のベンが、グラスの中のウイスキーをゆらゆらと揺らしている。その中の丸い大きな氷に向けられていた彼の視線が、ゆっくりとピアーズに向いた。
「さぁな・・・」
ピアーズは静かに答えウイスキーを少し口に含むと、グラスの中にあるハート型のゼリーを見つめた。
そんなピアーズを、仲間の誰もが心配そうに見やる。
「この前のアイツ」と言えば絶対に特定される者。ピアーズに対して「ライバル」と言ったあの男。つまりはその男も○○が好きなのだ。その男がつい先日言った言葉を、その男の顔を、ピアーズが忘れる訳がない。いつも○○のことをわざとらしく訊けば、照れたようなムキになったような表情をする彼が、今日に限って何の反応も示さない。そんなピアーズに誰もが戸惑っていた。
そんな仲間の視線を、ピアーズはちゃんとわかっていた。いつもは冷やかすような彼らが、自分のことを心配しているということを。しかしこれは、ピアーズの問題なのだ。幾ら彼らがどうこう言ったところで、ピアーズにその意志がなければどうすることもできないのだ。そのことを、彼らも十分にわかっているのだろう。ピアーズを見ては何かを言いたげにしている彼らの口は、微かに開いてはすぐに閉じてしまった。
しかし、ピアーズの中ではもう既に答えは出ていた。いや、ずっと前から答えなど出ていた。
渡すかよ・・・!
ピアーズは、急に現れた男の言うことを聞いて「はい。邪魔しません」というような、おとなしい男ではない。簡単に○○を諦めるような薄っぺらい感情は持ち合わせていない。そう、今までの○○を見つめる熱い眼差しや、頑張りすぎて引き攣った微笑みや、酷いウインクなどは、おとなしく薄っぺらい男では到底できないだろう。
「本当に・・・○○ちゃん、とられちゃうぞ。ピアーズ・・・?」
カウンターをちらりと見やれば、例の男と楽しそうに話す○○が見える。
だから、渡さねぇって!
しかしそうは思っても、このままでは近くなるどころか、どんどん離れる彼女との距離。ここ最近では更に彼女が遠くなったように思えた。いつまでもこうして悩んで、遠くから見つめている場合ではない。
ピアーズの中では、メラメラと熱い炎が燃えていた。
「俺は・・・・・・○○が好きだ・・・!」
ピアーズはグラスの中から仲間の方へと顔を上げる。彼の眼はいつものスナイパーの鋭いものだった。
そんなピアーズの力強い言葉を聞いて、マルコが嬉しそうな声を上げる。
「よしっ!俺、『ピアーズが勝つ』に10万賭けるぜっ!!勝ったらお前に10万やる!!だから!頑張れピアーズ!!フィンとベンもそれぞれ10万だ!!」
マルコの発言からすれば、マルコもベンもフィンもそれぞれ“ピアーズが勝つ”に10万を賭ける。そして、見事にピアーズが勝てば、その金を全てピアーズにあげる・・・。これでは「賭け」とは言わないだろう。しかし、賭けをして楽しむのが目的ではない。何だかんだ冷やかしたりしても、仲間として背中を押したいのだ。
「えっ!!僕もですか〜!?痛い出費だな・・・」
「勝ったピアーズに、何で新たな褒美をあげなくちゃいけないのか・・・しかし・・・頑張れよ、ピアーズ!」
フィンとベンも、金を出すのは嫌だが頑張れと嬉しそうな顔をしている。誰もがピアーズの答えを予想はしていたが、実際にそれを聞くと、やはり嬉しいものなのだろう。
「あのムカツク野郎に見せつけてやれ!“標的は確実に外さないスナイパーここにあり”ってな!そのかわり、負けたらお前、俺たちに10万ずつな!!」
「は!?おい、ちょっと待―」
なぜ、自分の恋の勝負の結果で、外野に大金を払わなくてはいけないのか。応援してくれるのは嬉しいし、心強いのだが・・・。急な展開に何と言ってよいかわからない。
「いいじゃねぇか。勝てばいいのさ、勝てば。できるだろ?」
マルコはいつもの調子でそう言って、ニヤリと口の端を上げた。
「このヤロウ・・・見てろよ!!」
ピアーズは一気にスナイプ・オブ・ラブを飲み干すと、鼻息を荒くしてマルコを睨み付けた。そして立ち上がり、カウンターへとドスドスと歩いて行く。
「おい!あんた!」
ピアーズは乱暴に椅子を引くと、ドカッと腰を下ろした。
「この前の勝負、受けて立つぜ!!俺だって負けられない!!」
悩んで恥ずかしがって見つめる日々はもう終わりだ!いくぜ!俺!・・・― Snipe Of Love ―・・・愛の狙撃・・・してやるぜ!!
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