―Snipe Of Love―
「△△〜、私、やっぱり何かしたかのかな?」
カウンターの端で、○○はホイップクリームを絞りながら隣に居る△△に訊いた。
おそらく自分は、ピアーズに嫌われている。しかし、嫌われるようなことをした覚えがなかった。だって、嫌われるまで口を利いたことがないから。嫌われるまで傍に居たこともないから。つい先程彼にぶつかったが、それよりも前から自分は嫌われている。
「え?何が?」
「二ヴァンスさん・・・何だか顔を逸らされちゃうんだよね」
「え〜?そんなこと・・・」
△△はいつもピアーズが居る席を見つめた。今日も同じ場所に居るピアーズを目にとめる。
「・・・ないよ!そんなこと!!って言うか、すごい見てるよ!?」
△△は目線はピアーズのまま、ホイップクリームを絞る○○の肩をバシバシと叩く。
「え?何を見てるって?あぁ、ちょっと!ホイップが・・・っ!」
△△に叩かれる度に○○の手は揺れ、絞り出したホイップが歪んで行く。本当は綺麗なホイップが、有り得ない形になってしまっていた。
「ほら、○○!ちょっと見てみなって!」
「ん〜?」
注文されたデザートを、△△のお蔭で有り得ない形に完成させた○○はサクランボを持ちながら顔を上げる。
こちらをまっすぐに見つめるピアーズの眼、その眼と自分の眼が今初めてかっちりと合った。
えっ!?この視線・・・!?
いつからか、感じていた視線があった。ただ単に、客が自分を呼ぶためのものだと思ったこともあった。視線を感じるなどと、自意識過剰かと思うこともあった。
○○の手から、サクランボが落ちて行く。
ピアーズの視線は、○○が随分前から感じていた視線その物だった。熱い視線というか、鋭い視線というか・・・。まっすぐに○○を見つめるピアーズの眼は、まるで標的をロックオンしているようだった。
あの視線は二ヴァンスさんのだったの・・・!?でも何で!?
○○は訳がわからなかった。眼を合わせもしないピアーズが、なぜ自分に視線を送っていたのか。
首を傾げる○○。
以前から感じていた視線は、ピアーズの物だと今わかった。つまり、ずっと前から自分は嫌われていて、睨まれていた・・・。そして、今日ぶつかったから、嫌われ度が最高潮に達したのか。
ピアーズは今までは我慢に我慢を重ね静かに○○を睨んでいたが、遂に我慢も限界、堂々と睨み始めた訳だ。
○○はピアーズに「俺はあんたが嫌いだ!近づくな!」と宣言されているような気がしてならなかった。
あ・・・やっぱり私は嫌われてるんだ・・・。
「△△、このデザート、フィンさんに持って行って!」
「え!私が持って行くの〜!?」
「決まってんじゃん!△△がバシバシ叩くから、こんな風になっちゃったんだから!」
新しいサクランボを乗せ、有り得ない形に完成させたデザートの器を努めて元気に手渡すと、○○はニッと笑って見せる。
フィンの元へとデザートを運ぶ△△を目で追えば、ホイップを見て笑う彼の仲間たちが見えた。その中には笑うピアーズもちゃんと居る。
よし・・・!近付かない・・・。
○○はカウンターの木目に視線を落とした。
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