―Snipe Of Love―
嫌われているのなら、近寄らない方がいいかな。いや、近寄らない方がいい。よし!彼のテーブルに物を運ぶ時は、それとなく△△に頼もう。
そう心に決めた○○だったのだが・・・。
「それでよぅ、ピアーズがな・・・」
結局、近寄ってしまっている。しかも話をするという、大接近。まあ、急に「近寄らない」というのも土台ムリなことなのだが。
あれ・・・?
○○はふと、話題の渦中であるピアーズが居ないことに気付いた。今日は3人だけだったかと思いながら、キョロキョロとする。
「そういえば、二ヴァンスさんは?」
「ああ、ピアーズなら便所に」
あ、よく見ればテーブルの上に水が4つ置かれているではないか!
「お手洗いですか。―じゃあ、皆さんが揃いましたら、またご注文を伺いますね」
ピアーズも来ていたのか。ならば彼が戻って来る前に早々に立ち去ろうと、○○は最もな言葉で締めくくり、去ろうとする。
頭を下げ、回れ右をした時だった。
「―ぶっ!」
何かにぶつかった。堅いと言えば堅い物。しかし、弾力がない訳でもない。それに、テーブルの間の通路でぶつかるような堅い物など、この店にはない。ぶつかると言えば大抵は店員か、客か・・・。しかも、こういう状況でぶつかる相手と言えば、嫌でも見当がつく。
○○は背中に嫌な汗を感じながら瞬間的に瞑った目をゆっくりと開く。
視界いっぱいに広がる生地とその色。それが人の着ている服であることが○○にはわかった。いや、もとい、わかっていた。
○○は恐る恐る視線を更に上へと持って行く。
シャツの丸首に、ジャケットの立ち襟が見える。そのジャケットには肩章とワッペンが付いていて・・・。
どうして「あの人だけにはぶつかりたくない」という人にぶつかってしまうのか。
「おい、あんた・・・」
ぎぃやああああ!やっぱり!!二ヴァンスさん!
「ごっ、ごめんなさいっ!!」
○○は急いで謝った。別に緊張する必要などないのだが、嫌われているという理由が○○をやたらと緊張させていた。
「・・・いや、大丈夫だ。あんたは?怪我はない?」
ピアーズの眼はやはり鋭く、笑ってなどいなかった。
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