ああ・・・やっぱり嫌われてるんだな
―Snipe Of Love―

 マルコに呼ばれて彼のテーブルに行った時のことだった。

 あ〜あ、やっぱりダメか・・・。

 やはり顔をこちらに向けないピアーズ。少し顔を上げたかと思えばすぐに逸らされてしまう。顔をこちらに向けなくてはいけないなどと、そんな決まりはない。それは当たり前なのだが、先程の△△との光景を思い出すと何だか少し悲しくなる。彼が顔をこちらに向ける時は、注文をするその時だけ、必要最低限なのだ。

 ○○は心の中で溜息をついた。

 ○○からは、ピアーズの表情がどういったものか伺えない。しかし、ある一つのことが彼女の中に浮かんだ。

 嫌われてるのかもな・・・。

 ○○はただ、ピアーズの茶色い髪を見つめた。

 あ、いや、もしかしたら、さっきとは打って変わって体調が悪くなったとか・・・?

「・・・あの・・・」

 ○○はこちらに向くことのないピアーズの頭に向かって静かに言葉を発した。しかし、「ピアーズさん」と呼ぶのは躊躇われた。他の人はみんな下の名前で呼んでいるのに、どうしてか、彼ばかりは下の名前で呼べない気がした。すぐに目を逸らされてしまうせいか、嫌われているかもしれないと思うせいか。

「・・・二ヴァンスさん、大丈夫でしょうか?具合でも・・・?」

 その瞬間にこちらに向いたピアーズの顔。しかし、その眼は△△に向いていた物とは違う。

 射抜くような、力強く鋭い眼。先程ピアーズは楽しそうに△△と話していた。しかし、その眼は楽しさの欠片など微塵も感じられない。

 つまりは。

 睨まれてる・・・?

 ○○は、たった今の自分の発言が、見事な失言だったことに気付く。

 ああ・・・やっぱり嫌われてるんだな。




 カウンターの隅でマルコが追加した酒を作ると、○○は手招きをして△△を呼んだ。ちらりとピアーズを見ると手元にある酒を見つめ、小さく溜息をついた。

「ごめん、△△。これ、マルコさんに持って行ってもらってもいい?」

「いいけど・・・どうしたの?」

 不思議そうな顔をした△△が○○を覗き込む。△△は今日はクリスが居るから、彼の居るテーブルに行けることは嬉しいのだが、その嬉しさよりも○○の様子が気になっているようだった。

「う〜ん。何か・・・嫌われてるみたいだから・・・・・・二ヴァンスさんに・・・」

 ○○は苦笑すると、背後にある酒瓶の棚にそっとウイスキーの瓶を戻した。


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