まぁ無意味な妄想話です。
ちょっと前に書きました。
ボカロ曲のfrom Y to Yが
棗すぎて(ぇ)思わず書いて
しまいました。
わりと、まともに書いたけど
ネタがネタだけにココに。




(棗→蜜柑)


「行くな」

そう言えたらどれほど楽なんだろうかと思う。
蜜柑が自分自身で母親と学園を出ることを決めた。
そう決断するだろうことは、途中から予想できていた。彼女の表情や握る手の強さで。
きっとそれが1番いいことなのだとは、よくわかっていた。
だけど、

「……矛盾してるな」

息苦しさで、棗さ胸元のアリスストーンを握り締める。
自分には蜜柑を守りきれるだけの力が残っているとは思えない。
アリスを使い、日に日に思い通りにならなくなっている体。自分の体のことは自分が1番わかっている。
それでも心のどこかで蜜柑に行ってほしくないと思っている。



「蜜柑、お母さんをしっかり支えるんだぞ」

「うん」

「私たちはまた会える。だからサヨナラなんて言うんじゃないわよ」

「うん」

「佐倉、体には気をつけて」

「うん」

鼻を啜りながらも、蜜柑は力強く頷く。
みなが別れを惜しむその間も、そちらを見ることができずにいた。もう何日も言葉を交わしていない。
きっと、顔を見れば引き留めてしまうだろう。そう思い背を向け続けた。蜜柑は、何も言わなかった。

「……それじゃあ、また。みんな、本当にありがとう。ウチはみんなが大好きやっ!」



蜜柑は涙でぐしゃぐしゃの顔で笑顔を作って去って行った。
蜜柑は無事、母親と落ち合って逃げられたのだろうか。
彼女がいないだけで、教室が広く感じる。活気がなく、…元通りだ。
罪を重ね、どうにでもなれ、と心のどこかで全てを諦めていた頃。
その麻痺した心を治してくれたのは蜜柑だった。突然やってきて突然去って行った彼女。
好きになるつもりはなかった。好きになるはずがなかった。
だけど、いつの頃からかこのままずっと隣で過ごせたら、と願うようになった。
それは叶わない願いではあったけれど。



「棗くん」

「……今井、お前、外出禁止じゃ、」

「まぁね。でも貴方に用があったから」

俺の部屋を訪ねてきた今井は、よからぬ発明品を使ったに違いない。

「これ」

そう言って今井が自身の拳をずい、と俺の方に出してくる。

「…蜜柑が、あなたにって」

今井が、大切そうに握り込んだ手の平を開くと、そこにはアリスストーンが乗っていた。
それは、自分も母親から貰って持っているアリスストーンと同じ色。

「柚香さんから届けられたアリスストーンの中にあったんですって」

「これって、お前の兄貴の…」

「そうね」

「だったら、お前が持ってるべきだろ」

今日の夜に、彼女は極秘で外国の研究所へ旅立つこととなっている。
兄との面会はあの日以来ない。面会も見送ることも許されていないのだ。
家族と離れ、友達と離れ、他人ばかりの場所に送り込まれる。
肝の据わった今井とて、不安がないはずがない。異国の地では、たった一つのこのストーンが彼女を支えるのではないか。

「蜜柑は言ったわ。“これは、蛍に渡すべきや”“でもウチはこれが少しでも棗を救ってくれたら…って思てしまうんや”ってね。
あの子はこれを貴方に渡したくて、誰の体にも入れずにこっそりと持っていたのよ。」

戸惑っていると、今井は無理矢理にアリスストーンを握らせた。
5、6歩離れてから、今井は「あ、」と思い出したかのように呟きこちらを振り返る。

「それからこれはお節介かもしれないけれど。…あの子、棗君のこと好きだったと思うわよ。」

…本当にお節介だ、と思う。だいたい、今井らしくもない。
だけど、それを素直に信じたいと思ってしまう自分がいる。

何年も経って、大人になって、学園の外に出られる時が来たなら真っ先に蜜柑に会いたいと思う。
自分が学園から出ることが許されるかはわからない。生きているかもわからない。
蜜柑の隣に誰かがいるかもしれない。…それでもかまわない。蜜柑が笑っているならばそれで。
会いに行き、ただ一言、「ありがとう」と自分は素直に言えるだろうか。

そんな時が訪れることを願って「またな」、と別れの日に言えなかった言葉を心の中で呟いた。



10/09/28


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