(泉水×柚香.パロ) いつも通りな昼休み。私と月は一つの机にお弁当箱を広げて食べ始める。 「ねぇ、柚香ちゃん、進路希望調査もう出した?」 「出したけど…」 「なんて書いたの?」 私は少し言い淀む。この子なら、私と同じ大学に行く、とか言いかねない。 「…大学に行くって。月は?」 「私はまだ出してないの。柚香ちゃんは頭いいからねぇ」 ふぅ、と月はため息をつく。提出期限は明日までなのに、大丈夫なのかと心配になる。 もう高3の6月というのに、この子には緊張感や危機感というものが、あまりない。 「やっぱ第一希望はアレよね」 「あれ?」 「専業主婦。」 「せっ!?」 私はごほごほと咳込む。口に入れていたおかずを噴き出さなかったことは褒めたい。 それにしたって、なんだって月はいきなり専業主婦だなんて。 「高収入ないい男と結婚してぇ、旦那さんの帰りを待ちながらご飯作ったり家事するの!ね、良くない?」 「…本気じゃないわよ、ね」 「まぁそりゃ、今んとこ相手がいないからねー」 でも、と月は口の端を上げてニヤリと笑う。 「柚香ちゃんは彼氏いるんだもんねぇ?もう結婚できる歳だし視野内だね」 「なっ、ばっ、月!」 私は相当真っ赤な顔をしたらしい。月は私の様子にあはは、と笑う。 「もー、冗談よ冗談。でも、今だに彼を紹介してくれないなんて月寂しいなァ」 親友なのに、と月はぶつぶつと言う。 私は人間関係は広く浅くといった感じで、わりと淡泊な方だ。 でも、どうゆうわけか彼女にはやたらと好かれ、学校生活を共にしている。 嫌いじゃない。むしろ好きだとは思う。気をつかうことなく一緒にいられるし楽だ。 ただ、月は少し…いや、かなりおかしい。いろいろと。だから心配なのだ。 「やっぱ大学かなぁ。私の学力じゃ柚香ちゃんと同じとこは無理だね。 でもでもっ!ルームシェアとかもいいなぁ…ね、柚香ちゃん」 にこり。いやいや、そんなとこで微笑まれても困る。語尾にハートマークをつけられても困る。 月とルームシェアなんて、プライベートな時間がなくなりそうだ。 お風呂に一緒に入ろうなんて誘われたり…あ、考えるけで怖いかも。 私は曖昧に笑って時計を見る。 「私、そろそろ進路指導室に行くね」 「あぁ、柚香ちゃん今日面談だっけ」 「うん」 お弁当箱を片付け、教室に向かう。面談なんて嫌だけど、でもちょっと嬉しかったり。 「おー、…安積!早いな」 「うん」 私の担任は行平泉水という。見た目は若いけど、もう30歳近いはず。 明るい色の髪、切れ長な目、細い眉。教師らしくないけど歴とした教師。 見た目とは違い、人懐っこくて明るくてみんなに好かれる人。 私も先生が好きだ。だから二人きりになれるのは嬉しい。たとえ“生徒”と“教師”としてでも。 「ふーん、○○大学ね。お前、勉強できるし素行もいいし行けるんじゃねぇの」 「先生…行けるんじゃねぇの、ってそんな適当な…」 私は少しでも長く先生と二人きりでいたいから、たくさん話したいのに。 「本当だって。……それより柚香」 先生はさっきより随分と声のボリュームを下げて言う。 「なに?」 「○○大に行くのは賛成だ。いいと思う。でもお前もう18だろ」 「来月で、ね」 「俺んとこ来る気はねぇの?」 「……は?え、どういう…」 まるで意味がわからない。私がそんな顔をしていると、先生は髪をグシャグシャと掻く。 「だから、俺と結婚する気ねえの?ってこと」 「ばっ、何言ってんの!」 「何って、卒業したら堂々と付き合えるし、お前の夢は俺と家庭持つことだって、いつか言ってたじゃん」 …そう、実は私が付き合っている人、それはこの行平泉水だ。高校の先生、しかも担任。 月に紹介なんてできるわけがない。周りにはもちろん内緒だ。それなのに、 「…言ったけど、ここ学校なの!何考えてんの先生!」 「だってコレも大事な将来のことだし」 先生は飄々とした表情で答える。ああ、もう頭が痛い。なんだって、この人はこう。 「で?何、お前は結婚したくないわけ」 「…したいです」 俯いたまま私は答える。返事がないから心配になって顔を恐る恐る上げると、先生は笑っていた。 ちょっと照れたような、嬉しそうな満足げな顔。この表情に更に私の顔は熱くなる。 「素直な柚香はかわいいな」 私の頭を撫でながら先生は言う。 「…素直なって何よ」 「うそうそ。なぁ、柚香」 「…なに」 「キスしていい?」 「な、」 私が返事をする前に、先生は私の首筋に軽くキスした。この人は教師として駄目だと思う。 …だけど、やっぱり好きで。 先生が本気で好きな子はたくさんいると思う。先生の笑顔は私だけのものじゃない。 でも、この表情だけは私だけのものなのかな。 「先生」 「ん?」 「…好きだよ」 先生は少し面食らった顔をしたあと、いつもどおりな意地悪な笑みを零した。 「ばーか、知ってるっつの」 きゅうう、と胸を締め付けられる。あぁ、好きだなぁ。私は先生が大好きだ。 ワンセンテンスで伝えて (そしたら素直になるから) 10/09/20 |