「なまえにはこっちよね。でもこっちのワンピも似合うと思うのよね…!」
「あの、なっちゃん、」
「んー?なになまえ。あんたもこっちがいいと思う?」
「いや、そうでなく」

なんでなっちゃんが私の家で服選びしてんですか。
そう、今日は待ちに待った休日。当たり前だけど学校は休み、にも関わらず何故か私の部屋にはなっちゃんがいます。確かに休みには遊んだりするけど、今日はそんな約束してないし、しかも時間が時間。…だってまだ7時半なんですけど。


「だってなまえ今日あの子とデートでしょ?」
「いや、デートじゃないし」
「あんたはそうでも向こうにとってはそうかもよ?」
「……」

ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべるなっちゃんを殴りたくなった。いや寧ろ呆れてため息だ。この人ほんとに恋愛事になると楽しそうだよね。まあ、そんなことは置いといて。実は今日私は何故だかあの丸井君とお出かけでーす。いえーい。…全然いえーいじゃないけどね。さかのぼること昨日の帰り道、


『なまえ明日暇?』
『え、まあ…。うん』
『やった!じゃあ明日午後2時に駅前集合な!』
『え、ちょっと?!』

そんな感じで丸井君は私の返事も待たずに約束だけ取り付けていってしまいました。断るにも断れなかった。特に断る理由もないんだけど。ただ丸井君のファンの子たちにバレたら大変なことになるだろうなあ。それは嫌だ。面倒事はほんとに勘弁。


「ところでどこ行くの?」
「さあ」
「さあってあんた…」
「だって丸井君が勝手に取り付けてきた約束なんだもん」
「そうだとしてもね、もっと楽しそうにしなさい」

私の頭を撫でながら(というか掴みながら)、なっちゃんは言い聞かせるように言った。その目は真剣でちょっとビビった。というかですね、別に嫌な訳ではないんですよ。丸井君とお出かけ。


「だってなっちゃんと遊びに行く方が楽しいもん」
「………そんな可愛いこと言ったって駄目だかんね!」
「なっちゃんキャラおかしいよ」

私の発言にキャラ崩壊しかけたなっちゃん。たまにあります、こういうの。結局そんななっちゃんを放置しつつ、彼女が選んだ服に袖を通した。…はあ、何もありませんよーに!












「え…、なまえ?」
「うん、そうだよ。なまえですよ。私がなまえ以外の誰に見えるって言うの丸井君」
「だって、すげー可愛い…」
「そりゃどうも。全部なっちゃんの仕業」

待ち合わせの場所に行くと、すでに待っていた丸井君は私を見るなりおっきな目を見開いた。この前なっちゃんと一緒に買った、私にはもったいないくらい可愛らしいミニワンピに、ゆるく巻かれた髪。もちろんメイクもバッチリされた。そんなオールなっちゃんプロデュースの格好はどうやら丸井君にかなりウケたらしい。その証拠に「鈴木先輩サンキュー!」なんて言ってる。あ、鈴木ってなっちゃんの名字ね。ともかくよかったね、なっちゃん。


「ところで丸井君、今日の行き先は?」
「あ、そうそう。ここ!」
「ケーキ、バイキング…?」
「そう!この前仁王から貰ったんだよ。あいつ全然食べねーだろ?だから」

いやいや。仁王くんが食べるとか食べないとか知らないから。確かに彼は食べなさそうな感じだけどさ。仁王くんに貰ったらしいケーキバイキングのチケットを出した丸井君。手の中のそれはなんともまあ可愛らしく、ピンクや水色のパステルカラーで、美味しそうなスウィーツの写真が載っていた。というかケーキバイキングって!…あのですね、ここだけの話、私こういうのには目がないんです!甘いもの大好きなんです。ついでに可愛いものも!ああ、丸井君が誘ってくれてよかった。この子だからケーキバイキングなんだよね。だって丸井君って常にお菓子持ってるんだもん。…大丈夫かな、病気になるんじゃないか。


「なまえ何食べる?」
「うーん、えっと…。チョコケーキとレアチーズケーキと、…あ!ミルフィーユもいいなあ。あ、でもタルトも美味しそう」
「…じゃあさ、俺も食いてーから半分こしねえ?」
「え、丸井君それでいいの?」
「うん」

ありがとう。とお礼を言うとまた丸井君は驚いたような顔をした。と思ったら視線をそらされてしまった。なんですか、言いたいことあるんならちゃんと言おうよ丸井君。しかし、こんなにもケーキの種類があるなんて思わなかった。いや、バイキングだから無いと困るんだけど。さすが丸井君。他の人とは目の付け所が違うね。感謝感激。


「ん、美味しい〜!丸井君、これすっごい美味しいよ」
「マジ?どれどれ……、やべえ!ちょーうめえ!」
「でしょでしょ!」

やっと選び終わったケーキをテーブルに運んで、いただきますと二人で手を合わせた。そして一番手前にあるケーキを一口。…あまりのうまさに私はいつもよりかなりテンションが上がってしまった。だって本当に美味しいんだもんこのケーキ!たぶん私が今まで食べてきた中でダントツ!ああ、幸せだ。もうこの際キャラ違うとかいいや、うん。


「………」
「ふふっ、丸井君面白い」
「…ん、何が?」
「だって食べてるとき無言なんだもん。それにすっごい幸せそう」
「うまいもん食って幸せになるのはあたりまえだろい!」
「まあね。でもケーキ食べてる丸井君かわいいよ」

ケーキを食べる丸井君の姿はまるで小動物。ほんとに下手したらそこらへんの女の子より普通に可愛いんじゃないかと思う。しかもその整った顔で幸せそうな顔で笑うんだから余計可愛い。


「丸井君ってどっちかっていうとかわいい方だよね」
「……かわいい」
「え?」
「なまえの方がかわいいって。」
「は、」
「ケーキ選んでるところも食ってるところも、今日の格好も、てかいつもすっげーかわいい」

声が出なかった。また、やられた。また、丸井君は私がいつも見てる可愛い顔と違う顔をした。どきっとした。でも今日は、そのどきっとした意味も違うみたいだ。だって、全然どきどきがおさまらない。



090729




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