「おはようっ」
「おはよう、なまえ」


パタパタと彼に駆け寄ると私を見て彼はふわりと笑い「今日も元気だね」と、ちょっと冷たい手で私の頭を撫でてくれる。
ふわふわとした気持ちでそれを受け入れていると彼が何かを思いついたように私の頭から手を離し「なまえからのおはようのキスが欲しいな」なんて、クスリと笑い自分の唇に人差し指を当てながら私を悪戯っぽく見つめて言う。

ああ!こんな人と付き合っているなんて正に夢のよう…!!
彼に一週間前、何事にも真っ直ぐな君が好きだと告白されたなんて私の妄想かと今でも思うくらいだ。取り巻きに可愛い女の子がたくさんいるのにその中から誰も選ばず、遠くで眺めていた私を好きだ、と耳元で甘く囁いてくれた。
私が欲しいと言ってくれた…っ!
みんなに見せる完璧な笑みとは違う優しい笑みを見せてくれる。抱き締めてくれる。愛おしそうに見つめてくれる…!なんて、なんて幸せなのだろう…!これ以上の幸せなどきっとない!

ああ、この幸せを与えてくれる彼のためなら私は何でもできる。
彼こそ、私の全て。


















少年に要求されたキスを終えて、初々しく頬を染めながら「じゃ、じゃあまた後でっ」と言い離れていく少女の後ろ姿を見つめながら、少年は先程まで少女に向けていた笑顔を嘘のように消す。
その卓越した容姿を誇るその顔から笑顔が消えると人形のように何の感情も窺えない。

「…くだらない」

そのまま冷えた声でポツリとそう呟くと、少年は先程まで少女の唇が触れていた己の形の良い唇を手の甲で乱暴に拭う。

少年は少女を愛してなどいなかった。少年にとって少女はただの遊びでしかない。
それも、飽きたら壊して捨てるだけのまさに退屈しのぎの玩具。その玩具となった少女は何人いたか、どんな顔をしていたのかさえも少年は覚えていない。
ただ覚えているのは少女達の壊れていく姿と悲痛に満ちた叫び声だけ。それが少年の唯一示す少女達、いや、玩具への感心。

「君はどんな風に壊れるのかな…なまえ」

そう言って少年―ミストレーネ・カルスは人間味の損なわれた顔から一変し、楽しくて仕方がない、とでもいうような笑みを浮かべてみせた。



110205 柚子葉





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