「なまえ、明日暇か?」
「明日…?おん、暇やけど」
「なら夏祭り行かへんか?」


夏休み真っ盛りな8月中旬。だけど、大阪浪速してんほほほーじ!テニス部マネージャーをしている私に夏休みは関係なく、毎日練習に励む部員の横でマネージャー業に励んでいた。そんなある日のこと。四天宝寺の聖書こと我が部の部長、白石蔵ノ介から夏祭りのお誘いをいただいた。ああ、そういや夏祭りがあるー言うて金ちゃんがはしゃいどったなあ。明日なんや、知らんかったわ…!


「夏祭り…?白石と?」
「おん。嫌か?」
「そんなことないけど…。他のみんなは?」
「たぶん行くと思うで。謙也も楽しみにしとるみたいやったし、金ちゃんなんかずっとあんな調子やろ?」
「はは、そうやね」


夏祭りがあると知ってからの金ちゃんの嬉しそうな顔を思い出して思わず微笑む。ほんま、いつも以上に練習頑張っとったもんなあ。いや、金ちゃんはいつも練習を頑張るっちゅーか楽しんどるか。…謙也も謙也で落ち着きなかったからなあ。光にうざがられとったし。あの時の謙也の顔は傑作やったな。


「じゃあ明日、6時に迎えに行くな」
「おん。おおきに」
「浴衣、着てきてな!」
「は?!え、ちょ、白石?!」


言い逃げかい!私の言葉を聞かずにそれだけ言って帰っていった白石の背中を見て心の中の突っ込みが思わず口から零れた。…な、んやねん。白石のやつ。浴衣着てこいって。まあ、夏祭り言うたら浴衣やけど…。みんなも浴衣なんかなあ。でもあいつら持ってなさそうやな。せやったら、あいつらん中で私一人浴衣って浮くやん!けどさっきの白石の期待しとるでって感じの顔!何に期待してんねん、自分!私の浴衣なんか見てもしょーもないやろ!…ああもう!


「着てけばええんやろ、とにかく!」

よし!とひとり気合いを入れて、家への道を急いだ。








「まあ、ええんとちゃいます?」
「…もっとかわええ言い方できんのですか、光くん」


夏祭りの当日。只今夕方の5時半、白石が迎えに来るまであと30分。昨日の夜、家中を探して見つけた浴衣をお母さんに着付けもらった。そんな私を見て微妙な感想をくれたんは、うちの部で天才と呼ばれとる財前光。実は光とは家が隣同士で幼なじみみたいなもんだ。


「その言い方うざいっすわ」
「…光、あんたって子は、」
「嘘。似合っとる」
「ひかるうぅう!」
「あー、もう抱きつかんといてください」


うっとうしい、と口では言いながらも抱きつく私を剥がそうとはしない光に顔が緩んでしまう。ほんま光はかわええなあ。ツンデレとかたまらんわ〜!


「ニヤニヤせんでください。キモイっすわ」
「うふふふー、うるさいで光くん!」
「うざ…」
「なんやとー?!」


ボソッと呟かれた光の言葉にカチンときて、光に反論しようとした時。ピンポーン、というインターホンの音とお母さんが玄関に向かう音がして。少し誰かと話す声がした後に「なまえー、白石くんよー!」と、次は叫ぶ声が聞こえた。てか、え!もうそんな時間なん?時計を見てみれば6時5分前。どうやら光とかなりじゃれてたらしい。ああ、やってもうたわ。ま、準備はバッチリやし、問題はないか!


「んじゃ行くかー、って光は?」
「俺は謙也さんと約束しとるんで先行っといてください」
「んー。わかった、また後でね!」


行ってきまーす!と未だに人ん家で寛いでる光に手を振って玄関へ急いだ。まあ光は昔っからよう家来てたからええんやけどなー。あいつは浴衣着んのかなあ。あ、去年も持っとらん言うてたな。今も私服やったし。謙也も持っとらんやろー、じゃあ白石もかな?でも白石は私服でも充分かっこええか、みんなそうやけ、ど…!?


「お、なまえ。よう似合っとるで」
「…しら、い…し…」
「どうしたん?」
「あんた浴衣似合いすぎや!」
「ん、そうか?」
「おん!ヤバいで!?」


玄関に行くと、そこには浴衣を着た白石がいた。その姿があまりにも様になっていて、思わず叫んでしまった。ほんまに予想以上に似合っとって…、ちゅーか浴衣着てくるなんて思わんかったわ…!わあ…、これだから美人さんは!何着ても似合うなんて羨ましい限りや。これ白石のファンの子が見たら卒倒するやろな。


「何笑っとるん?」
「は、え!私笑っとった?!」
「ごっつニコニコしとったで。いや、ニヤニヤか?」
「あああぁあ!ちゃうねん!その、今の白石をファンの子が見たら大変やろな〜思て…」
「はは、なんやそれ」


私の発言に白石は苦笑する。それだけでかなり絵になる。ああ、私でも見とれてしまうんやからファンの子やったらほんまに倒れるんやないか。そんなことをぼーっと考えているとすっ、と差し出された大きな手。それはもちろん白石の手で。私が疑問符を浮かべていると一言、「ほら、行くで」と微笑んだ。そんな姿を見て、王子さまみたいだなんて柄にも無いことを思ってしまった。



煌めく世界ときみ



続きます。
090810 杏雨



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