「さっぶ!」

日付は11月下旬。もうすぐクリスマスな12月が近付いているから寒いのも当たり前。だけどつい先日まで11月らしからぬ暖かさだったため身体は慣れていなく、いきなりらしくなった気候についていけないらしい。そしてわたしは制服にセーター、マフラーを装備して、寒空の下ひとり登校中である。ちなみにスカート丈は膝のかなり上。しかもタイツなんか履いていなく、生足を晒していた。寒いからってスカート丈を伸ばしたり、タイツを履くなんてわたしのポリシーに反している。もちろんスカートの下にジャージなんて論外。絶対無理!これだけは譲れない。すっごく寒いけどね。ほんといきなり寒くなるなんて卑怯だ!


「うわ、息白いんですけど!ありえない…!」

手袋をしていない冷え切った手に、はーっと息をかける。自分の口から出た白い息を見てなんだかさらに寒くなった気がした。とりあえず外よりは暖かいだろう学校へ足を動かす。寒さのため自然と歩く速度が早くなる。マフラーに鼻までうずめ、カーディガンの袖を伸ばして手を引っ込め、あとわずかな学校までの道のりを急いだ。





おはよー。学校に着けばあちらこちらでそんな声が飛び交っていた。一応わたしも友達はそれなりに多い方なのでみんなから声をかけられ、それに返事をする。いやあ、しかしみんな朝から元気なことだね。こちとら寒くて死んじゃいそうなのに!あ、やだ。おばさんみたいじゃん、わたし。


「おはよう」
「あ、幸村。おは…よ、」
「…なに」

おばさんみたいじゃん云々考えていたらふと後ろから聞き慣れた声。振り返ってあんぐり。え、だってまさか。幸村の悔しいほど綺麗なお顔の半分くらいは白い布で覆われている。顎から鼻くらいまで。つまりマスクをしてらっしゃいます。さすがの魔王幸村さまでも風邪はひくんだね。ちょっとは人間らしくて安心した、うん。


「お前今失礼なこと考えただろ」
「いやいや、滅相もない」
「…言っとくけどこれは予防だからね」

俺はどっかの馬鹿みたいに風邪ひいたりしないから。そう言いつつ何気にわたしの横に並んだ幸村を見上げた。どっかの馬鹿って…。誰か風邪ひいたのか。あ、そういえば赤也君風邪気味だったかも。可哀想に、ご愁傷様。そのうち仁王や丸井らへんにうつるんだろうな。そっかー、風邪ひいちゃったのか赤也君。馬鹿は風邪ひかないっていうのに。あ、これはさすがに酷いか。さーせん。あとでお見舞い行くからね赤也君。


「まったく、試合が近いっていうのに」
「まあまあ、誰だって風邪くらいひくって」

まあ、幸村はひかないだろうけど。もし幸村が風邪ひいたら人類は滅亡する。大袈裟だと思うけどなんだかそんな気がしてならない。なんて本人の前じゃ口が裂けても言えないけど!言ったら何されるか…。ああ恐ろしい!


「…ねえ、また失礼なこと考えたでしょ」
「……」

なんでわかっちゃうのこの人!図星をつかれたわたしは冷や汗ダラダラ。上から笑顔で見下ろしてくる幸村の圧力がハンパない。わたしと幸村は頭いっこ分身長が違うから余計に、ね!笑顔で見下ろしてくる幸村と視線を合わせまいとひたすら明後日の方向に視線を泳がせる。


「目ェ逸らすとか図星って言ってるようなものだよね?」
「いやいやいやいや!というか挟まれた顔がとても痛いんですけどわたし!」
「ん?何?聞こえないなあ。というかうるさいよ、少し黙ろうか。塞ぐよ?」

ええ、理不尽!とか思う間もなく突然わたしの唇に触れた温かいもの。それが幸村のだと理解したときには、彼は目の前でにっこりと笑っていた。え、何この展開…!何で幸村にキスされたのわたし!てかここ廊下なんですけど!なんて思いつつ、明日は自分を守るため、マスクをしてこようと心に決めたのであった。だって現在進行形でまたキスしようとしてきてるんだもん、この男。ほんとはマスクつけるの絶対に嫌なんだけどね!予防、ってことで。そしてこれを始まりに、キス魔な幸村とわたしの攻防戦が毎日のように繰り広げられるのはまた別のお話。



マスクで風邪とキス魔予防



六花さまに提出
グダグダすみません…!

091221



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テーマ「人外ファンタジー」
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