2:想
「女、名は?」
彼のその言葉に私は少し驚いた。
だって彼は私の名前を知っている筈だから…。
それでも私は彼の言葉のままに名前を呟いた。
『椿です』
私がそう声を発せば彼は満足そうにそうかと笑う。
少し硬い人なんだろうと思っていたからかその笑みに自然に私も笑みを浮かべてしまう。
そんな彼の笑みに私は気付けば惹かれている事に気付いていけないと気を引き締め直す。
彼はそんな私を見てまたその笑みを深めた。
「良い名だなァ…」
『ありがとうございます…あら、もうお帰りですか…?』
立ち上がった彼に慌てて立ち上がる。
そっと彼の手が私の髪を撫でて翡翠の眼が私を見つめた。
「あぁ…明日も早ェんだ…また来る。」
『はい、是非に』
彼を見送ってその後、私は珍しく何もする気が起きなくて窓から部屋に差し込む月明かりをぼうっと見つめながら小さく溜め息を吐く。
「高杉…晋助…」
気付けば口から零れるのは彼の名。
引き締めた筈の気が緩んで、私は次に逢える日を楽しみにそっと瞼を下ろして眠りについた。
〆