1:出逢
“近くの小さな色街に綺麗な遊女が居る”
そんな言葉を耳にした俺は気休めに一人ふらりとその色街に足を運んだ。
『ようこそいらっしゃいんした…どうぞごゆるりと』
遊女なら皆口にするその言葉と一緒に迎えた女の印象は聞いたものそのまま…。
“美人”や“綺麗”
そんな言葉はこの女の為にあるモンなんだろうと柄にも無く頭に過った程に女は美しく儚げな容姿だった。
「その言葉遣いなんとかなんねェかァ…?」
俺が口にした言葉に女の酌をする手が止まり、その澄んだ目が見開かれ驚いた表情が顔を出せば女は直ぐに柔らかく笑みを溢した。
『そうですね、私もこの言葉遣いは慣れていないんです。』
「なら尚更だァ…お前さんが話し易いように話してくれた方が嬉しいしなァ…」
『ふふ、変わった御方ですね』
女の笑みは俺の中に小さく渦巻く黒いものをゆっくりと決して逆撫でする事なく解かしていくような気がする。
その感覚に不思議を覚えて思わず眉を寄せて居れば女はその通った声で俺の名を口にした。
『高杉、晋助様でしたよね』
「ん?あぁ…」
『また来て下さいますか…?』
「…あぁ」
素直に頷いてやれば女はまた柔らかく笑みを浮かべる。
俺はその口から女の名を聞きたくなって問いかけた。
「女、名は?」
そうすれば女は再び少し目を見開いた後ゆっくりと口を開いた。
『椿です』
〆