3:呼名
「椿、来たぜェ」
『晋助様、お待ちしてました。』
初めて逢ったあの日から数ヶ月が経った。
今日で逢った回数も何回目だったか…。
変わらぬ言葉遣いにも違和感を覚えて思わず苦笑を浮かべる。
「そろそろその話し方もやめねぇかァ…?」
『…!ごめんなさい、私元々こんな話し方で…気に障りました…?』
困ったように小さく笑みを浮かべる椿を見ているとやっぱり思う事がある。
何回か逢っているうちに気付いた事…。
椿は何処か先生に似ている。
その雰囲気だとか、一つ芯を持って生きている所…。
そんな椿に俺は気付けば好意を持つようになっていた。
身請けも考えたが椿の気持ちも知れねェで勝手にそんな行為に走るのは良くねェだろう…何より今の俺には身請けするだけの金が無ェ…。
『晋助様…?』
「ん?あ、あぁ…悪ィ」
『お疲れですか…?』
「いや、大丈夫だァ…」
“晋助様”か…元々敬語に近しい話し方なら仕方ねェ…と思うものの他人行儀過ぎるのも寂しいモンだ。
「せめて“晋助様”はやめねェかァ…?」
『あ…分かりました、貴方が望むなら』
そう言った椿の笑みに俺は笑みを返して猪口に残った酒を喉に流し込んで、そっと椿の髪に手を伸ばした。
〆