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おとなのおにいさんのルイがしょうぶをしかけない
萌え 2020/01/22 00:57


・ポケモン剣盾に突っ込んでみた
・ゾル兄さん:ガラルの姿
・ポケモンのチョイスは完全に趣味





 この喫茶店はバトルカフェという店で、一人につき一日一回、マスターであるイチロウさんにバトルを挑めるらしい。マスターに勝てればポケモンが喜ぶスイーツを貰えるということで、とても人気があるようだ。……というのを、近くにいた別のお客さんに聞いた。金髪で明るい雰囲気のいかにも女子高生っぽい子だが、もしかするとNPCトレーナーのミニスカートちゃんだったりするのだろうか。赤いブレザーと黒いミニスカートにタイツがよく似合っている。向かい側に座っていたクラスメイトらしきお嬢さんもポニーテールが可愛らしかった。友達と朝から喫茶店でモーニングセットなんて優雅で羨ましい。なお、俺に声を掛けた男性はわたあめワンコに絡め取られた状態で床に正座している。謎の光景である。

「あっ! お兄さんもしかしてモデルの勧誘されたの?」

「え?」

 その時、俺が手にしている名刺を見たミニスカートちゃん(仮)が声を上げた。俺の目には何度見ても謎の書体にしか見えないが、彼女たちがよく見えるように差し出してやると、二人は黄色い声ではしゃぎ出した。

「その名刺、ルリナも所属してるモデル事務所の奴じゃん!」

「月刊ニンフィアにもその事務所のモデル出てたよね!」

 ルリナもニンフィアも分からない俺は、誤魔化すように苦笑いするしかない。

「あー……。俺に渡してきた人があの通りだから、まだ話は何も聞いてなくて。モデルの勧誘なのかな?」

「絶対そうだよ! お兄さん、超イケメンだからモデルになれるって!」

「やばーい! 一緒に写メ撮ってもいい?」

 ポニーテールちゃんがそう言うと、彼女のブレザーのポケットからピンク色の板が飛び出してきた。比喩ではなく、本当に独りでに宙を飛んだのだ。見た目はスマホに限りなく近いが、背面部分に顔がついている。やたらと長い睫毛をしたスマホ(仮)は、大きな目で俺にウインクをした。

(スマホが勝手に飛び出してきて浮いてる!? 科学ってスゲー!)

 ……後日聞いたところ、科学じゃなくてポケモンだった。正確に言うと、スマホに憑依したロトムというポケモンらしい。ロトムとやら、お前のポケ生はそれでいいのか? あと、撮影に関してはやんわりとお断りを入れた。

 すると、マスターの説教を受けていた男性がぐるりとこちらに顔を向けた。あまり説教は聞いていないのかもしれない。

「そう! そうなんだ! 僕はそのモデル事務所のナックルシティ支部で働いてるんだ! 君には是非モデルになって欲しい!」

「どこまで本当ですかねぇ」

「ぱふもふ」

「あっあっ、やめて食べないで」

 マスターのイチロウさんのあくまで穏やかだが疑わし気な声に応えるように、わたあめワンコがもしゃもしゃと男を甘噛みする。面白いので放っておきたいが、本当にそうするのはさすがに鬼畜であるし、何より話が本当なら仕事にありつけるので(仕事内容はともかく)、俺は女子高生コンビに出来る限り愛想良く声を掛けた。この顔が使えるのなら使っておきたい。

「その名刺って、本物か分かるかな?」

「えー? どうだろう」

「この電話番号調べてみれば良くない?」

 二人は顔を突き合わせてスマホで検索すると、あっという間に名刺の真偽を導き出した。

「――あ、番号は本物っぽいよ」

 正直なところ、番号に電話を掛けて身元の確認くらいはしたかったが、他人のスマホを借りることはさすがに気が引けたので諦めることにした。

「ありがとう、助かったよ」

 にっこりとして返事をすると、二人はきゃあきゃあと喜ぶ。イケメンは得だな羨ましい。フツメン根性が抜けない俺にとっては微妙な心境だ。

「ほら! 僕は本物のスカウトマンです! だから許してください!」

「仕方ないですね。ですが、今後はお代を頂く前に店から飛び出るのは許しませんよ」

「肝に銘じます……」

 マスターの言葉を聞き、ぺっと音がしそうな様子でわたあめワンコが男性を吐き出す。とてもぞんざいな扱いだが、自業自得である。

 男性は自分の席に置きっ放しだった鞄からハンカチを取り出すと、それで顔や体を拭きながら俺をテーブルに招いた。ベタベタにされた彼の惨状は見るも哀れであり、ハンカチ程度でどうにかなるようなレベルではない。だが彼に「日を改めて」などと言える余裕が俺にあるわけでもないので、俺は髪もスーツもベタベタにされた男性と向き合って座るという珍妙な状況を受け入れた。

「さあさあ、いくらでも奢るから好きな物を頼みなさい!」

「よろしいですか? では、お言葉に甘えて」

 ミミッキュとヒトモシを差し置いてご馳走になるのは気が引けたが、彼女たちには後で木の実をたくさん採ってあげよう。俺は遠慮なくマスターのイチロウさんにナポリタンを頼んだ。頼んでないのにホットコーヒーが二人分サーブされたが、それは迷惑料だろう。イチロウさんが威圧的な笑顔を浮かべながら、伝票にコーヒーを追記しているのが見えた。だが怒りのコーヒーは薫り高くとても美味しかったので俺は満足である。なお、コーヒーと一緒に運ばれてきたホイップクリームは、カウンターの上で楽しそうにくるくる回っているポケモンとは無関係だと信じたい。何なんだあの子の見た目……生クリームのウォータークラウンにしか見えないのだが。物凄く他のポケモンに捕食されそうな姿である。

「僕の名前はテオ。ミロカロスプロダクションのナックルシティ支部マネジメント部でお仕事しています。普段はスカウトはしていないんだけど、君ならナックルシティでもやれるんじゃないかと思って声を掛けさせてもらいました」

(モデル事務所の人間ということしか分からん)

 社名も地名も右から左に流れていく。とりあえず男性の名前がテオであることは覚えた。

「社名とロゴはミロカロスから取っているんですよ。ヒンバスが美しいミロカロスに進化するように、我々もモデルさんを育てて輝かせたいと思っています」

(ミロカロスもヒンバスも分からん……)

 名刺にある蛇っぽいシルエットがミロカロスで美しいらしい、としか分からない。初代勢にはついて行けない話である。コイキングがギャラドスになるようなものと勝手に思っておこう。

「先程、お嬢さんたちが言っていたように、ルリナさんもうちの所属なんですよ。所属としてはシュートシティ本部ですけどね」

(地名と人名が出過ぎ問題)

 ルリナさんとやらが分からなければ、ナックルもシュートも分からない。地名に関してはそんな名前の奴らがハンター世界にいたよな、くらいの印象である。関連性は絶対にない。

「スカウトさせてもらったからには、君のマネジメントは僕にやらせてもらいたい。僕が主に仕事を斡旋しているのはナックルシティになるから、あのキバナさんのホームで色々大変だと思うけれど、君ならきっと張り合えると思います」

(さらに人名増やすのやめてくれ)

 しかも何が辛いって、こちらが知っていることを前提に話されるのが辛い。俺はこの町の名前すら知らなかったんだぞ……と言えたらいいのだが、言えばドン引きされるのが目に見えているので黙るしかない。空気を読んで発言を慎むのはとても得意です。ただ、黙り続けてもお話にならないので、もの知らず扱いされても多少は探りを入れていかなければならないだろう。

「あの……すみません。ルリナさんもキバナさんも、ピンとこないんですが……」

「え? 君、新聞や雑誌を読んだり、SNSを見たりしないんですか?」

(そこまで有名人だったのかよ!!)

 探ろうとしたら初手で失敗した感がある。テオさんが目を丸くするのを見て、俺は若干後悔した。モデルの名前なんて興味のある人くらいしか知らないものだろうと思ったのだが、そういう相手ではなかったようだ。しかし言ってしまったからには、この路線で人物設定を積み上げていくしかないだろう。できれば、相手から色々と説明してもらえるド田舎出身者を騙りたいのだが、そもそもこの世界の田舎が分からないし、エンジンシティの都会度も分からないので難しい。いや、雪山キャンパーたるレジェンド・レッドさんがいらっしゃる世界だ、ワイルドエリアに引きこもってたら世俗から隔離されたルートはアリか? 一度もバトルしたことがない眠れる獅子・レベル60ミミッキュの存在でごり押しできないこともない、かもしれない。さすがに、ミミッキュがいなくてもワイルドエリアに永住できますと言ったらヤバいことくらい分かる。

 初代組の古い知識を念頭に置きつつ、どうにかこうにか経歴を誤魔化して説明すると、テオさんは呆れ半分、感心半分の顔をした。

「君って、カントー地方のキトウシみたいな生活してたんですね」

(それは知ってる)

 シオンタウンの共同墓地で「キエェーッ!」って言ってくる人だ。正気の人は手持ちポケモンを回復してくれるけど。祈祷師の正気率の低さには涙を禁じ得ない。え、キトウシってそんなに俗世捨ててるのか? 俗世捨てたら正気まで捨ててたのは、シオンタウンにいる一部だけだと信じたい。

 しかし案外あっさり信じてくれたテオさんは、俺の疑問点を答えてくれた。彼はスマホらしき物(ポニーテールちゃんと同じく顔がついたスマホ)の画面を俺に見せた。

「ルリナさんはバウタウンのジムリーダー兼モデルをされている方です。レイジングウェイブって聞いたことありません? まさにクールビューティーを体現されている女性なんです。あくまでバウタウンがホームなので、都市部でモデルとしての露出は多くないですが、それだけに希少性があります」

 画面に映っていたのは、褐色肌の若い女性だった。十代後半か二十代前半だろう。すらりと伸びた手足が美しく、ライトシアンのメッシュ混じりの長い黒髪と、南国の海の色をしたアーモンド形の瞳がエキゾチックなとびきりの美女だ。おっぱいは控えめだがスレンダーな容姿が彼女には非常に合っている。美乳だ間違いない。彼女単体のショット以外は、水タイプらしきポケモンたちと写っているものが多いのは、“レイジングウェイブ”だからだろうか。褐色の肌が水を弾く光景は、素晴らしく健康的なエロスに溢れている。キュッと上がった素敵なお尻に敷かれたいし、何なら魅惑のおみ足に挟まれたいが、空気を読んで黙っておく。同じことを考える男は絶対に俺だけではないと思う。

「こちらはキバナさん。ナックルシティのジムリーダーで、こちらはモデルをされてはいないんですが、SNSの自撮りが人気を集めています。ドラゴンストーム・キバナはバトルも強いですし、タレント並みの人気者ですよ」

 次いで見せられたのはこれまた若いイケメンだった。こちらは俺と同じくらいの年かもしれない。褐色の肌に青色の垂れ目という特徴だと某トリプルフェイスを思い出すが、実際の写真を見ると全く印象が重ならない。ツーブロックなのか、独特の黒髪を後頭部で結い上げ、その上からオレンジのバンダナのようなものを巻いている姿はワイルドだ。SNSに上げられた自撮りの数々は、人懐っこそうな笑顔からバトル中と思しき犬歯を剥き出しにした獰猛な顔まで幅広い。ただ、時折砂嵐だけの写真が紛れているのは意味不明である。

 どうやら、ガラル地方ではかなりタレント要素が強いジムリーダーがいるようだ。ポケモンリーグがテレビ中継されているというので、初代の頃よりジムリーダーが身近で、ジムリーダーもマスコミを意識した活動が必要になってくるのかもしれない。……あとルリナさんは水タイプで、キバナさんはドラゴンタイプとみた。ルリナさんが最初の方で、キバナさんは最後の方で戦うジムリーダーなんだろお兄さん知ってる。

 テオさんが言うには、キバナさんの方が俺にとって主な競争相手になるらしい。単純に考えるなら、同じ男性だからだろう。それにしても、スマホの画面から迸るキバナさんの陽キャの気配は俺に真似できそうにない。俺は根本的にインドア派のオタクなんだよ……溶けるから陽の光に当てないでくれ。あ、ゴーストタイプばかり寄ってきたのは俺がインドア派のせいか? そんな馬鹿な。

「君はキバナさんとはタイプが違う。全然ワイルドじゃない。クールな表情が絶対に売れます!」

 恐らく、やろうとしていたこと(日雇い労働しつつ手ぶらでワイルドエリアで野宿生活)は誰よりもワイルドだとは思うが。比肩するのは雪山単独キャンパーと聞くレッドさんくらいではなかろうか。しかし、俺が陽キャでないことについては全面的に同意する。

 とりあえず、テオさんが俺に何をさせたいのかは分かった。キバナさんに対抗馬をぶつけてやろうという情熱も理解できた。

「テオさんは俺をモデルとして主にナックルシティで売り出したい、と」

「ええ。路線は要相談ですが、第一印象ではクール系を考えています。キバナさんと競合しない路線で存在感を出していくつもりです」

 テオさんは「男性モデルやタレントだと、キバナさんかマクワさん、ネズさんに喰われがちなんですよね」と漏らす。……だからこれ以上、軽率に人名を増やさないでくれ! まさかと思うが、そいつら全員ジムリーダーとか言わないだろうな。

 内心の叫びをきっちり隠し通した俺は、テーブルに肘をついて顔の前で手を組むかのゲンドウポーズを取った。取った途端に目の前にナポリタンを置かれたので全く決まらなかったが、真顔でテオさんに尋ねる。ナポリタンを食べたいが少し我慢する。

「率直に聞きますが……すぐに稼げますか?」

 正直なところ、俺にモデルが出来る気がしない。顔の作りがいいのは遺伝子的な意味で重々承知しているが、それを上手く活用する方法は知らない。だがそんなことより金である。何はともあれ金である。犯罪行為に手を染めるまでもなく真っ当な稼ぎを得られるのなら、体を張るのはやぶさかではない。ここはハンター世界ではないので、ゾルディックの俺が写真を撮られるのは問題ない。俺は言われた通りのポーズしか取れないし、表情についてはどこまで指示に応えられるかもわからないので大成しないだろうが、当座の金が懐に入れば満足なので構わないだろう。テオさんは構うかもしれないが、残念ながら俺にはそこまで付き合う動機がないので妥協してもらうしかない。

「俺は昨日、ワイルドエリアで荷物を全て落としてきたので、身一つとポケモン2匹しか財産がない状態です。近々で最低限の生活を送れる程度の稼ぎか、あるいは福利厚生を期待してもよろしいでしょうか?」

「世俗じゃなくて荷物を捨てちゃったんですね」

 違いますどちらも捨ててないです。飲み会帰りに異世界に攫われただけです。そんな言い訳もできないこんな世の中じゃ。あ、毒タイプのポケモン手持ちにいなかったわ。ポイズン。

「予想外に切羽詰まってるようですが……そうですね。当面の住む場所を用意します。仕事もできる限り早く回せるよう努力しますね。ところで手持ちのポケモンたちは何ですか? 餌の用意もありますので」

(ちょっと気前が良すぎないか?)

 暗黙のうちに積み上げられる期待が重い。目を逸らしたくなるのを堪え、俺は手持ちを告げた。

「ミミッキュとヒトモシです」

「……ん?」

「ミミッキュとヒトモシです」

 圧倒的ゴースト推しメンバーですが何か。

「それはまた……随分と偏った…………ミステリアス要素も足してみます?」

「ちょっとよく分からないですね」

「トークを要求されなければイケると思います」

(俺の人格、売り物にならない認定でしたか)

 見た目はゾルディックブランドで整っているが、衣食住をよこせと要求しているのを見られたら夢も醒めるか。納得である。

「それで、お話は受けていただけると考えても?」

 モデルという仕事は未知数だが、素早く衣食住を確保できるのはあまりにも魅力的だ。畑違いの仕事がどれほど困難かは想像も難しいが、テオさんに目を掛けてもらっている間にこの世界の常識をある程度獲得してしまいたい。受けるしかないだろう。

 俺が頷くと、テオさんはぱっと顔を輝かせた。俺もにっこりとしてナポリタンに手を付ける。もっちりとした麺が甘みのあるトマトソースに絡んで非常に美味しい。これはランチセットも食べてみたくなる味である。木の実しか入れていない胃袋には素晴らしいご馳走だった。

「では早速、ナックルシティに行きましょう! 詳しい書面での契約はそちらで行いますね」

 あっ! 俺、文字読めない!!



+ + +



生クリームポケモンはマホミルです。進化形はもっと捕食されそうだよ、ゾル兄さん。キョダイマックスになると突然アメリカナイズになって動揺しますが。高カロリーのミサイル(公式)って狂気の沙汰。

男性ジムリーダーでダンデの名前が挙がらなかったのは、彼については圧倒的チャンピオンなので除外されただけです。張り合うには路線が違い過ぎる。

ゾル兄さんにはオニオン君と自撮りして欲しい。オニオン君を片手抱っこして一緒にミミッキュポーズとか(両手で耳を作るだけ。ダンデのリザードンポーズより考えてない)。



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